⑨
どうやら、この液体がこの臭いの元らしい。赤と言うには、あまりにも毒々しく黒ずんだそれは、気持ちが悪いと表現するのが適切とすら思える…。
一度通っただけあって迷うことは少なかったが、ゾンビの足跡や、謎の液体を避けながらだったため、昨日より時間はかかってしまった。しかし、昨日と同じところに、ラズベリーはしっかりと実っていたことに関しては、一安心と言ったところだろうか。一つずつ、摘み取り、タオルを収納していたケースに詰め込んでおく。
意外と入るもので、これだけあれば、二日は摘みに来なくて良さそうだ。あとは、腐らないようにしないといけないのと、腐ったものを判別しないといけないのだが…。
「ラズベリーって、どれくらい保つんだ?こんなとき、携帯が使えればすぐに調べられるのに…」
そう呟くが、携帯が使える状況ならこんなことを考えなくて良かったのではないか、という思考が諦めを促した…。
ここまでゾンビとの遭遇がないが、ここに来て、さらに昨日気付けなかったものが姿を現した。ラズベリーが実り絡まり合う草木の隙間から、タイルのような床がうっすら覗き見えた。
ナイフで草木を切り裂こうとすると、なにかに引っかかった。長年の成長による繁茂と、大量の雑草によってわからなかったが、どうやら、このラズベリーは、金網に沿って成長したもののようだ。引っかかったナイフに力を入れると、すぐに金網は裂けた。
裂け目を広げていくと、足元に苔と雑草で埋もれたレンガタイルが姿を現した。
金網といい、このタイルといい、確実に人工物であるそれは、人が住んでいたという可能性を示唆するものではあるが、この様子に希望を抱くことはできなかった。
特に考えがあったわけではないが、足はそのタイルの上を歩き、前進し始めた。期待か、好奇心か、その歩みを進ませるものがなにかは定かではないが、そこに恐怖はなかった。
木々によって、日差しは木漏れ日程度しか差し込んでこないため、時間とは関係なく、薄暗い場所が続く。人が通った形跡は全くなく、成長した草木を掻き分け進んでいく。
すると、今度は鉄柵に行く手を阻まれた。左右に長々と続いているようで、どちらに沿って進むかで迷ったが、右に進行を再開した。
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