日が沈み切ると、光源は月だけになり、視界は極めて不自由なものとなった。

 さらに、森からはガサガサと音が止まない。姿が見えない上、音も小さいため、人間でないことはすぐにわかるが、つい期待して覗いてしまう。

 俺がこの島に流れ着いたというなら、あの船から投げ出された他の人間も、ここに辿り着いていてもおかしくはないのではないだろうか?

 岩陰に葉っぱを敷いただけの寝床は、寝心地最悪だったが、昼間の疲労も相まって、その日は自然と眠りについていた。

 その夜。森から吹いてくる風が、生暖かさと森のざわめきを連れてくる。そして、もう一つ…。

「なんだ、この臭い…」

 俺は、強烈な悪臭に襲われ、目を覚ました。

 どんな表現が適切なのかわからないが、排便物のようなものではなく、腐臭のような臭いだった…。

『ガサガサ…、ガサガサ…』

 そこで、俺に危機感が芽生えた。その特徴的な臭いには、心当たりがあったからだ。こういうときは、周囲の静けさが音の出所を鮮明にしてくれて、心強い反面、不気味さを増幅させていた。

 耳を澄ませ、方向がわかったところで、岩陰から顔を覗かせた。

 森の中は、月光が差し込まないため、あまり視界は良くない。しかし、確かに視認できた。

 二足歩行のなにかが森を歩き回っている。もしかしたら、俺以外の人間かも知れないという希望を抱いたが、下手に近付くわけにもいかないため、目を凝らすだけに留めた。

 一連の行動で、暗さに慣れてきた目に加え、徐々に進行し続けてくれたおかげで、鬱蒼と茂る樹木の隙間から漏れる月光にその姿が照らされ、存在は明らかなものとなった。

 間違いない。ゾンビだ。まさか、同じ島に流れ着いていたとは…。

 いや、他の人間が流れ着いているかもという予想を立てた時点で、この可能性があり得ることも考えるべきだったか…。

 姿を確認できはしたが、変わらず得体の知れない存在と遭遇したことにより、動悸が激しさを増す。念のため、周囲も確認してみたが、他に類似した存在はいないようだった。

 漂着したのがあいつだけという断定はできないが、少なくとも近くにはいない…。

 いくら得体の知れない存在とはいえ、ゾンビがあいつだけということなら、なんとかなるかもしれない。と、思うのは流石に軽率なのかもしれない。しかし、この島で生き抜くためには、島内の外敵を排除することは必要事項だ。あいつが俺のことに気付いていないこの状況がチャンスであることは間違いない。

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