④
『ピーン、ポーン、パーン、ポーン…』
『只今より、甲板を解放致します。この素晴らしき門出に、是非、夜景をお楽しみください』
甲板解放のアナウンスによって、時間の経過に気付かされた。出港予定時刻から鑑みれば、夜景を楽しむ時刻になっていても、なんら不思議ではない。現在の時刻は、午後の九時。せっかくなので、アナウンスに従って楽しむとしよう。
セキュリティ面に問題はなさそうだが、念のため貴重品は持ち出しておきたい。とはいえ、キャリーケースを持ち運びたくはないため、リュックに詰められるだけの荷物を収納して、甲板に向かうことにした。
部屋を出ると、廊下からすでに人混みが始まっており、一瞬躊躇われたが、せっかくだからと甲板への歩みを再び進める。
甲板には大人数が集まっていたが、それでも窮屈に感じないのは、このスケールの大きさが理由だろう。これなら、人混みが苦手な俺でも十分に楽しめそうだ。
雑音は多いが、空を見上げれば、満点の星空と月が輝きを放つ美しい情景が広がっている。そして、海に映り込む星々もまた美しいものだ。これは、カメラが欲しくなる気持ちもわかる。月に照らされる水平線は静けさを体現しているようで、心に平穏をもたらした…。
『ドカーーーーン!』
船の下部辺りから爆発音が聞こえたと思ったら、同時に船体が揺れる。甲板の雰囲気は一転し、楽しげな声が失われた。ざわめきが増し、不安が周囲で膨れ上がっていく。
俺もその一人であり、当然なにが起きているかなどわかるはずもない。そんな中でも、俺は身を乗り出し、爆発音が聞こえた場所を覗き見た。
煙が上がり、はっきりとは見えなかったが、それが見えたとき、恐怖を感じたことは自覚した。自分が目にしたものを、否定したくなったのは初めての経験だった。
すると、さらに激しい揺れによって、甲板の旅行者たちが宙を舞い、次々に海へと投げ出された。甲板の端に寄っていた俺は、当然海へと落ちていく…。
そんな状況に置かれながらも、俺の好奇心は、視線を甲板から見下ろした場所へと誘導していた。落下の際に接近したことにより、答えがはっきりした。
俺が見たそれは、腹部から内臓を露出させた状態で船体にしがみついていた。認めたくはないが、俺はそれを、ゾンビと表現することしかできなかった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます