『ピーン、ポーン、パーン、ポーン…』

『只今より、甲板を解放致します。この素晴らしき門出に、是非、夜景をお楽しみください』

 甲板解放のアナウンスによって、時間の経過に気付かされた。出港予定時刻から鑑みれば、夜景を楽しむ時刻になっていても、なんら不思議ではない。現在の時刻は、午後の九時。せっかくなので、アナウンスに従って楽しむとしよう。

 セキュリティ面に問題はなさそうだが、念のため貴重品は持ち出しておきたい。とはいえ、キャリーケースを持ち運びたくはないため、リュックに詰められるだけの荷物を収納して、甲板に向かうことにした。

 部屋を出ると、廊下からすでに人混みが始まっており、一瞬躊躇われたが、せっかくだからと甲板への歩みを再び進める。

 甲板には大人数が集まっていたが、それでも窮屈に感じないのは、このスケールの大きさが理由だろう。これなら、人混みが苦手な俺でも十分に楽しめそうだ。

 雑音は多いが、空を見上げれば、満点の星空と月が輝きを放つ美しい情景が広がっている。そして、海に映り込む星々もまた美しいものだ。これは、カメラが欲しくなる気持ちもわかる。月に照らされる水平線は静けさを体現しているようで、心に平穏をもたらした…。


『ドカーーーーン!』


 船の下部辺りから爆発音が聞こえたと思ったら、同時に船体が揺れる。甲板の雰囲気は一転し、楽しげな声が失われた。ざわめきが増し、不安が周囲で膨れ上がっていく。

 俺もその一人であり、当然なにが起きているかなどわかるはずもない。そんな中でも、俺は身を乗り出し、爆発音が聞こえた場所を覗き見た。

 煙が上がり、はっきりとは見えなかったが、それが見えたとき、恐怖を感じたことは自覚した。自分が目にしたものを、否定したくなったのは初めての経験だった。

 すると、さらに激しい揺れによって、甲板の旅行者たちが宙を舞い、次々に海へと投げ出された。甲板の端に寄っていた俺は、当然海へと落ちていく…。

そんな状況に置かれながらも、俺の好奇心は、視線を甲板から見下ろした場所へと誘導していた。落下の際に接近したことにより、答えがはっきりした。

 俺が見たそれは、腹部から内臓を露出させた状態で船体にしがみついていた。認めたくはないが、俺はそれを、ゾンビと表現することしかできなかった…。

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