中ボスの魔族女子と英雄になるクール系男子

夏輝 陽

プロローグ1 ~中ボスと貧乏人~

………金がない


剣の腕に自信があるけど、ひとりで依頼をこなすには限界がある。誰かと共に依頼をこなさない俺は報酬の少ない依頼ばかりを引き受けるので度々残金が無くなる事のは珍しくなかった


夕飯を済ませた俺は会計を済ませ、宿代や食事代を稼ぐ為にギルドへ向かった



「今お受けできるお仕事は…すみませんコレくらいしかありません」

ギルド受付人のヤアコ・フェルト(19)、人見知りな青年だ。人見知りという部分では俺も一緒だからか親近感が湧き、互いに唯一と言っていいほど仲がいい


そんなヤアコが提示してきた依頼は、"魔王から送られてきた新たな中ボスの討伐依頼"

難易度☆☆☆★★★★★★★の報酬が400Gだ


この国では1食1Gで良い食事がとれ、1泊2Gで宿に泊まれる。1日他諸々含め5~7G、節約すれば最低でも4Gで過ごせるので2ヶ月程分と言えるだろう


しかし高い難易度なので熟練の戦士でもクリアするには大変だと言う

俺でも★★★★★と★★★★★★で死にかけた事がある。もしかしたら俺がこの依頼をこなそうものなら今度こそ命を落とす可能性が高い


他の冒険者や傭兵、戦士を誘えば生存率が上がるかも知れないけど自信がない。連携とれないだろうし、互いに自分の足を引っ張る未来が想像に難しくないからだ


「…わかった、なんとかやってみるよ」

宿代すらない俺にとってはやるしか無かった


「あの…宿とか食事に困ってるなら僕の家に来ませんか?」

ヤアコはそんな提案をして、少し考えたけど―――


「俺が受けれる依頼がコレしかないんだ。明日になったら誰かに取られるかも知れない」

「この頃ランクD以下の依頼は少なくなってきてますしね…」


ランクとは、冒険者ランクの事

個人の強さや知識、協調性などを測定して下からE、D、C、B、A…そしてAランクのインフレから最近できたスーパーランク、いわゆるSランクの6つのランクに分けられている


「でもフリー(F)ランク依頼制度が出来て助かった」

「Fランク依頼というのは高ランク帯のパーティーの人手不足に、低ランク帯の人を引き連る事が出来るという人員不足と低ランク脱却を補う為のFランク依頼制度なんですけどね…」


なるほど、人付き合いが下手な自分にとっては無縁の制度のように思える…しかし低ランクでも受けれるというのを逆手にとって低ランクの俺ひとりでも依頼を受けれるという事ではないだろうか


「でも、ソロプレイの俺にこの話をしたのは俺でも討伐できる見込みがあるからだろ?」

「剣士としての腕は一流ですからね、ヴァルフさんは」

「なるほど…という事は相手は中ボスただひとりか?」

「そういう事ですね。されど魔王様に仕える中ボスなのでとても危険な人物ではあります…それに道中の魔物の群れにも要注意です」

「危険は承知のうえさ、期待に応えるよ」

「…ありがとうございます」



依頼を受ける上での手続きを終えて、ギルドを後にした自分は依頼書に記された地、"ダルゥズ遺跡ダンジョン"へ向かった



ダンジョンの入口に到着し早々大きめのリュックからダンジョン用の道具だけ取り出し、リュックを誰にも見えない様に瓦礫の裏に隠してダンジョンへと潜る


潜ってから数分後、違和感に気付いた

魔族や魔物がいない…

不自然なくらいに静寂な通路をただただ進んでいく


道中宝箱らしきものを見掛けるけど、ソロにとっては罠だった場合の対処が困難なため見かけてもいつも通り素通りする



魔物と遭遇する事もなく20分程でダンジョンの最奥らしき大きなエリアにすんなり着いた

その大きななエリアの中央に依頼に書いてあった中ボスらしき魔族がこちらを見て佇んでいた


そこへ再び止まっていた足を動かし向かう

魔族の全身の姿がよく見えてきた

遠くからでは分からなかったけど、この魔族は黒い角や黒く細長い尻尾こそ生えているがそれ以外、容姿は普通の小柄な女子だった


「君が魔王様から送られてきた中ボスとやらか?」


「うん、僕は魔王軍の中ボスという設定らしいね」


ここはアクションRPGのゲーム世界、設定というものがありこの世界にいる数々の生き物は設定に準じて行動している

だけど行動までは自分の意思で考えて行動している…と信じたい


「あなたは強敵相手に1人で来た。という事は勇者?」

「残念ながら、ただのDランク剣士だよ」

「そうなんだ…僕ってそんな弱そうに見える?」


ナメられてると勘違いしたのか少し殺気立っている


「他の人と組むのが苦手なだけだよ」

「…ほんとに?」

「…まぁ」


少しの間微妙な空気が流れ、魔族の子が口を開く


「なんでもいいけど、私は四天王前の中ボス。結構強いけどやる?」

「ああ、仕事だから討伐させて頂くよ」

「ソロなのに強敵戦…あなたも大変ね」


そう言って魔族の子は小さな亜空間から大鎌を取り出し、それを掲げて力を溜めげいる


「…そういえば、名前は?」


マイペースかな、こんな時に自己紹介などと

「ヴァルフ・フライハイト」

「僕はイア・ティフィア」

「ティフィアは闇が得意そうだ」


ティフィアは大鎌に溜めていた闇の魔力を俺の方に向け、解放した


「イアって呼んで。それに全属性の魔法使える」

大きな闇の魔力の球体状の波動を床を抉りながら俺の方へと来る。それを剣で防いで受け流した


「全属性はスゴいな、中ボスなんて器じゃない」

「僕、多分相手の数が多ければ多いほど通用しなくなると思うから…それで中ボスなのかも」

「でも俺ひとりだから、本領発揮だな」

「これで負けたらヘコむ」


そりゃそうだろう…対1なら自信があると言ってるようなモノだから


「俺も、相手がひとりだから依頼を受けたんだ」

剣を高く掲げ、STR(ストレンジ)の自己バフを行った


「僕たち、似た者同士ね」

「そのようだ…!」


一気に間合いを詰め、イア(の大鎌)へと斬りかかった!


「んっ…中々やるね」

「ほぼ全力で斬りかかってるんだけどな」


大鎌はとても頑丈で、斬るのはとても困難に思えた


「無駄、これはオリハルコンで出来た死神の持っている大鎌より硬い大鎌」

「俺のアダマンタイトの剣じゃ破壊するのは困難だな」


俺は大きく後ろへと跳び、後退した


「僕の体を斬るしかないね」

分かりきってはいるが、俺はイアの体を斬るのを躊躇っている


「………」

「人型を斬るのは嫌?」

「確かに、ゴブリンとかオークを斬るのは…昔は戸惑ってたな」

「僕を斬らないのは戸惑っているから?」

「そうだな」


そうだ、俺は戸惑っている。人一倍悪意を感じ取れる自分は、イアからその悪意というものが感じ取れないからだ


「俺は別に殺人鬼ではないからな」

「でも、僕は沢山の人を殺めてきたよ」

「弱肉強食が世の理、それは仕方ないことだ」

「まぁ…そうね」


どうしたものかと剣は構えてはいるけど、膠着状態が続いた…


「…もうこれ以上は無意味ね」

そう言ってイアは持っていた大鎌を亜空間へと戻し、戦う意思を無いと示した


俺もそれを見て剣を腰の鞘へと収めた

「今回の依頼は失敗だな」

やっぱりヤアコを頼るしかないな…と、思ったのだけれど


「僕も着いてく」

「なんでさ」

「無力化できたのは事実だし、一緒に行って説明した方が説得力だいぶ高いよ」


それはそうだけど…ギルドが混乱するだろうな

「ダメかな?」


そんな上目遣いで頼まれたら―――

「いいよ」

「ちょろ…」

「乗ってやっただけだ。でも来てくれた方がいい、実際に討伐できたというには事情が複雑だからな」

「世界のシステム的にもクリア扱いになってない訳だしね」

「そういう事だ」


多少は面倒な事になりそうだけど報酬の為だ。腹を括ろう

「一緒に行こうか」

「うん」



帰り道、口数が少ない俺たちはさっきの会話から10分後、気まずくなってきたので話しかけることにした


「ここのダンジョンに魔物がいないのは何でだろう」

「僕がほとんど狩ったから、かな」

「そうだろうなと思ってた」

「残ってた子も多分ダンジョンの外まで逃げた」

「強力な魔族が魔物狩りしてたらそりゃ逃げるよな…」



ダンジョンの出口が見えてきた頃、イアが話しかけてきた


「…敵の僕を本当に連れて行くの?」

「提案したのはイアの方なのにか。…中ボスっていう立場が好ましくないんだろ?」

「好ましくないというか、ただヴァルフと居た方が楽しいかなと思って」

「…ん?」


もしかして依頼を報告した後も着いてくる気なのだろうか


「ダメかな?」

またも上目遣いで頼まれては断る理由もない

俺自身も、イアには興味があったし


「いいけど、俺は宿暮らしで家なんてないし…泊まるなら街中は厳しいかも知れない」

「…やっぱり魔族が街中に入れるのは良くないのかな」

「大抵魔族は、人間に悪さするからな。よく思われないだろう」

「ヴァルフも僕が隣に居るのは嫌?」

「ううん、俺は嫌じゃない」

「どうして?」


そう言われて小さい頃を思い出しながら答えた

「…昔ちょっとな、魔族に助けられた事があって…それで別の種族に対して苦手意識がないのかも」

「ん…」



ダンジョンから脱出し、街へ戻る道中…流石に魔物に襲われた。ゴブリンの群れだ

連携をとる事を知らない俺は、とにかくイアを俺の背後を任せた


「僕に背後を任せるなんて、流石に気を弛めすぎだと思う」

「そう言ってイアも俺から背中を向けてるだろうに」

「…うん」


相変わらず考えてる事が分からないけど、協力してくれるのはとてもありがたい

あまり苦戦しない相手ではある…しかしゴブリンは知能があり、魔族に近い位置にいる魔物だ。油断はできない



苦戦する事なく戦闘を終えた

「こんなに楽に倒せるなんて思わなかった。助かったよ」

「そうだね」

彼女はそう言って死んだゴブリンのアイテム欄を開き、持ち物を漁る


「シャーマンリングを回収したけど、いる?」

「レアアイテムじゃないか、いいの?」

「ヴァルフは貧乏だから…これで足しになるかと」


確かに、他の街で売れば高いけど今いる街では…


「残念ながら買い取ってくれる商人が今住んでいるとこでは―――」

「そういう事なら問題ないよ」

そう言って彼女は笛らしきモノを俺に見せてきた


「契約した魔族呼びの笛。魔族商人と契約してあるから、笛を吹けば来てくれる。その人なら買い取ってくれるはず」

さすが四天王の中ボス。同族や魔王軍から慕われてるんだろうな



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