第6話

 その後も、いくつかの試験を終えてワタシは控え室で待機していた。


「あのぉー……そのベヒーモスの子供って危険じゃないのですか?」


 眼鏡をかけた黄色い髪の女性が恐る恐るワタシに近づいて来て、そう問いかける。


「ワタシが召喚したから大丈夫よ。だけど他の人には……どうだろう?」


 そう言いワタシは、ベモへ視線を向ける。


“ミュルンが攻撃しろと命令しない限り危害は加えないぞ”


 それを聞きワタシは、ホッと胸を撫で下ろした。


「大丈夫よ。ワタシが攻撃の命令を出しさえしなければね」

「じゃあ……触っても大丈夫ですか?」


 そう言われワタシは頷き笑みを浮かべる。

 眼鏡をかけた女性は喜びベモを撫でた。


「わあ〜可愛い! ゴロゴロ喉を鳴らしてる」


 目を輝かせ眼鏡をかけた女性は喜んでいる。

 それを聞きつけ数名の人たちも集まって来てベモを撫で始めた。

 なぜかベモは上機嫌である。

 因みにベモの名前を聞かれたので教えた。


「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私はエリザローゼ・ハーモニです。年齢は十七よ」

「まあ〜同じ歳なのね。あ、そうそう……ワタシはミュルン・シンフォニアスですわ、よろしくお願いします」


 自己紹介を終えるとワタシはエリザローゼと最後の試験が始まるまで話をする。


 ⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎


 いよいよ最終試験だ。闘技場に設置されていたステージはなくなっていた。

 それをみてワタシは次の試験である歌バトルの意味を理解する。


 一対一って聞いていたけれど歌と魔法でバトルするってことなのね。


 番号と名前を呼ばれ中央へと向かった。

 因みに既にワタシの前の人たちの試験は終わっている。


 これで最後……バトルは不安しかないけど。ここまで来たら、やめる選択肢はないよね。

 それよりも最終試験の内容を伏せていたのって逃げられないようになのかな?


 そうこう考えながら会場の中央までくると指定された場所で待機した。

 対戦者の水色の髪の女性も立ち位置までくる。

 名前はシェナカーナ・バイオセジムというらしい。

 そうそうルールは歌いながら魔法を使って戦い勝った方が勝者。だけど技量をみるのが目的らしいので負けても試験に大きく影響はない。


 ワタシは深呼吸をすると身構えシェナカーナを見据えた。


「ミュルンさん、ボクは負けませんよ。バトルなら慣れいるからね」

「そうなのね。ワタシは何処までできるか分からないけど……ここまで来たら負けたくありません」


 そう話をしていると開始の合図が聞こえてくる。


 ……――戦いの鐘が鳴り〜♫――……


 歌いリズムをとり踊りながらワタシは魔法陣を描き始めた。


 ……――この一撃であなたを射抜いてみせるわ〜♫――……


 シェナカーナもステッキで魔法陣を描きながらリズムをとり踊り歌っている。

 歌いながらワタシは歌詞の中に魔法の言葉を加えた。


 ……――その手から火炎球のような熱いものを放ち〜♫――……


 魔法陣を描き終えるとシェナカーナを指差して「攻撃」と言いはなつ。

 その間も歌って踊り続けている。

 魔法陣は発光し火炎球が飛び出した。そのままシェナカーナへと向かっている。

 勿論シェナカーナも歌いながら雷撃の魔法を放ってきて、ワタシは咄嗟に避けた。

 ワタシが放った火炎球をシェナカーナは簡単に避ける。

 その後もワタシとシェナカーナは歌いながら魔法を放ち攻撃するも中々決着つかずタイムアップで引き分けとなった。

 ワタシはシェナカーナと握手をしたあと会釈をする。

 観客席は沸き拍手と歓声が聞こえてくる。ワタシとシェナカーナは別々の出入口へと向かい歩き出した。

 歓声と拍手はワタシとシェナカーナの姿がみえなくなるまで辺りに響き渡っている。

 まだ合格した訳でもないのに嬉しくて涙が出てきた。


 そういえば今日、泣いたの何回だっけ?


 そう思いながらワタシは控え室へ向かい歩いた。


 ⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎


 全ての試験を終える。その間、結果が発表されるまで控え室で待機していた。

 ワタシはエリザローゼとシェナカーナと色々な話をする。

 しばらくして全員よび出され会場へと向かった。


 ⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎


 会場までくるとワタシは、ステージへと視線を向ける。


 いよいよ結果発表なのね。受かるのかな? うん、もし受からなくても悔いはない。全力でやり切ったもの。


 そう思いながらワタシは、みんなと一緒にステージの上に立った。


 そして順番に番号が、ゆっくりと告げられる。


「……――二番、四番」


 ゴクンと唾を飲み込んだ。


「五番――……」


 それを聞きワタシは嬉しさのあまり大泣きしてしまった。

 そんなワタシをみてエリザローゼとシェナカーナは「良かったね」と頭をさすってくれる。


“良かったな。おめでとう……それでこそオレの女だ”


 ベモにお祝いを言われて嬉しかった。だけど意味不明な一言で嬉しさが半減する。

 勿論エリザローゼとシェナカーナも受かった。

 番号を告げられた者は前に出て発言をする。勿論ワタシもだ。


「合格できました。まだ信じられません……本当にありがとうございました」


 そう言いワタシは会釈をする。まだ涙が止まらない。

 その後、合格者の挨拶が終わりワタシはみんなと一緒に退場した。


 ――時は戻り二ヶ月後――


 あの時は本当に嬉しかった。

 ううん、今も最高に嬉しいし楽しいよ。


“良かった、良かった。それでオレは何時、人間にしてくれるんだ?”


 知らないって言ってるでしょ! そもそもベモはワタシのペットなんだからね。


 そう脳内で言うとベモは、ケラケラと笑っていた。


 そして今日もワタシは、エリザローゼとシェナカーナや仲間たちと城の特設ステージで歌っている。――――★完★

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】ソング★オブ★幻想狂想曲〜本当にワタシが歌ってもいいの?〜 ミケネコ ミイミ♪ @myimi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画