第5話

 番号と名前を呼ばれてワタシは試験会場……メインステージへと歩みを進めた。歩みを進めるごとに、ドキドキが増してくる。


 大丈夫……試験は始まったばかり。それだけじゃない……この雰囲気にのまれてるようじゃ仮に受かっても続かない。


 気持ちを引き締めステージへと視線を向けた。


「うん、やらなきゃ」


 気合いを入れるとステージに上がる。観客席から歓声が沸き上がった。

 気持ちを引き締めたはずが、また緊張してくる。


 こんな所で立ちどまっていては前に進めない。

 駄目でもいい……何もしないで逃げるよりはマシよね!


「五番……ミュルン・シンフォニアス、よろしくお願いします!」


 会釈をするとワタシは正面をみた。

 皆、一斉に黙る。

 深呼吸をしたあとワタシは、リズムをとりダンスをしながら人差し指で魔法陣を幾重にも描いていった。

 優しく魔法陣は発光する。ポンッと幾重にも描かれた魔法陣から色々なタイプの可愛い妖精たちが現れた。

 ワタシは更にリズムをとりながら妖精たちに指示をだす。すると妖精たちは、ワタシの手の動きの通り飛び交っている。

 観客席からは、ドッと歓声が沸き上がった。

 全て終えるとワタシは妖精たちを消して「ありがとうございました!」と挨拶をし会釈をする。

 観客席から拍手が聞こえてきた。

 ワタシは泣きそうになるも堪えステージを降り出入口へと向かう。

 拍手はワタシの姿が会場から消えるまで続いている。


 ⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎


 控え室に戻ってくるとワタシは次にやる試験の順番を待った。次の試験は歌唱力だ。


 みんなの前で歌う……これもクリアしないと、この先やっていけない。


 しばらくして扉が開いた。次の試験が始まるようだ。呼ばれた二番の人は部屋から出ていった。


 そういえば一番って男性なのか。どんな殿方が歌っているの? ああ……観客席でみたかったなぁ。


“浮気するなよ”


「……」


 あーえっと……そ、そうだね(汗)


 ベモが発した言葉に絶句する。ベモが彼氏みたいな発言をしたからだ。

 その声で言われると、へなぁ〜ってとけそうになる。だけどベモはベヒーモスの子供なんだよね。だから、そう言われても……無理だ。

 何かを察したのかベモはワタシの首を舐める。


「アーン……」


 変な声を出してしまい恥ずかしくって顔が熱くなった。

 恐る恐る周囲をみてみる。

 今の声を聞かれていたのか数名の人が口を塞ぎ笑いを堪えていた。


 どうしよう……恥ずかしいよう。


“良い声だったぞ。これなら大丈夫だ”


 何が大丈夫なのかと、ジト目でベモをみる。

 何もなかったようにベモは、ニコニコしていた。

 ワタシの顔が緩んでいく……。可愛い過ぎて、スリスリしたくなる。

 その後も色々と考えながら待機していた。

 そして刻々と時間は過ぎワタシの番号が呼ばれる。


 ⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎


 ここはステージの上だ。

 辺りから沸き上がる歓声。

 ワタシの紹介が再びされる。

 会釈をしワタシは歌うため声を出した。


 曲? 試験のため演奏する人などいる訳もないのでアカペラだよ。


 ……――ささやく貴方の声は〜♫――……


 ワタシは語るように歌う。リズミカルに踊りながら堂々と声を張り上げる。

 観客席からは声が聞こえてこない。

 不安になるも立ちどまらずに軽やかに歌いステップを踏んだ。

 それに合わせてベモはワタシの肩の上で踊っている。

 可愛いと思ってしまい顔が緩む。


 だけどそのお陰で楽しく歌えてる。うん、いい感じだ。


 ……――その想いを胸に飛び立つよ〜彼方へと〜♫――……


 全てを歌いきりワタシは、やり切ったと思い清々しい気持ちで笑みを浮かべた。

 そのあと「ありがとうございました!」と言い会釈をする。

 観客席からアンコールの声が聞こえてきた。

 ワタシは呆然と佇んだ。その言葉を聞けるとは思わなかったため嬉し過ぎて涙が溢れでた。

 司会者に退場するように言われワタシは再び会釈をするとステージを降りる。

 ワタシの姿が見えなくなるまで、アンコールの声と拍手は続いていた。

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