第4話
ここはサイクレット城だ。
ワタシはベモを肩に乗せ、カナセリアと城の東側にある闘技場の前にいた。
闘技場の入口付近には受付のテントが設置されている。
「人が多いですね」
「そうね。でも試験を受ける人ばかりじゃないみたいよ」
「そうなのですね。あっ! そういえば旦那さまと奥さまが、あとからこられると言っていました」
それを聞きワタシは緊張してきた。
まさかお母さまとお父さまがくるなんて……。
ドキドキが止まらない、どうしよう。こんなんじゃ試験を真面に受けられないよ。
「ミュルン様、大きく深呼吸をしてください」
それを聞きワタシは、なんでそう言ったのかカナセリアの真意が分からなかった。
だけど試しに深呼吸をしてみる。
あれ? なんか気持ちが落ち着いてきた。
そうか……ワタシの様子がおかしかったから。
「カナセリア、ありがとう。気持ちが落ち着いたわ」
「それは良かったです。では私は旦那さまと奥さまを待たなければなりませんので」
会釈をするとカナセリアは正面入口の前へ向かった。
それを見送ったワタシは受験者のために用意された控え室に繋がる入口へと向かい歩きだす。
⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎
「ここが控え室なのですね」
ワタシは女性用と書かれた部屋に入り周囲を見回した。
控え室の中には九名いる。だいたい年齢は十代後半から二十代ぐらいかなと思った。
いよいよ……よね。受験番号順らしいから見直しておこうっと。
五番……まだ時間はある。確か最初は得意な魔法を披露するんだよね。
そう思い順番を待った。
なんだろう? 痛いほど視線を感じる。一人じゃない……複数人の視線。ワタシ何かしたの? でも……した覚えないよ。
どう考えても分からない。只、順番を待っているだけで何もしてないはず。それなのにワタシをみてる。
なんでみられているのか分からずワタシは困惑した。
でもその訳は肩に視線を向けた瞬間に判明する。
もしかしてベモのことを警戒してるの?
そうだとすると、ベモがベヒーモスの子供だって知っているってことになるよね。
という事は、ワタシの肩から移動させない方がいい。
そう思いワタシは、ベモに肩から動くなと指示を出した。
それを聞いたベモは、コクッと可愛く頷きワタシの首へ顔をスリスリしてくる。
やっぱり可愛いよ〜。
ワタシの顔は恐らくニヤけているだろう。
それでもいい。だってベモが可愛いからね。
ニヤニヤしながらワタシはベモをみていた。
周囲から視線を感じながらもワタシは、それに堪えて順番を待っている。
つらいといえばそうなのかもしれない。でも、ベモをみているお陰か癒された。
そうこう考えていると呼びに来た人に五番と言われワタシは立ち上がり控え室をでる。その時、ベモも一緒で大丈夫かと聞いた。
却って逃がさないようにしてくださいと言われる。
そう言われワタシは苦笑し頷くと試験会場へ向かい歩いた。
⭐︎❇︎⭐︎❇︎⭐︎
会場への出入口に立ちワタシは外から聞こえてくる熱狂的な歓声にたじろいだ。
怖い……だけど試験を受けなと歌い手になれない。
震えが止まらず涙も出てきた。
“大丈夫だ。ミュルンならできる。今まで頑張って来たんだよな。それを、こんなことで無駄にするのか?”
誰? ワタシの頭の中に話しかけてるのは……。凄く、イケボなんだけど。
そう思い問いかけると周囲を見回した。
“オレはミュルンのそばにいるぞ”
もしかしてベモなの?
“ああ、そうだ。驚いたかい?”
そう聞かれワタシは頷いた。それと同時に不釣り合いな声のためベモをみれなくなる。
あーそうなんだね。そうそう……試験、試験。
返す言葉に困りワタシは、そう言い誤魔化した。
それをみてベモは、ニヤッと笑みを浮かべる。
ふとワタシは、あることに気づいた。そう、何時の間にか震えが止まっていたのだ。
その後ワタシは、ベモに感謝する。そして勇気を振り絞り出入口から試験会場へと向かい歩き出した。
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