第12話 不眠の街④
「うえーん」
アトリアとメイベラと合流すると、アトリアが目から涙を流していて、彼女らしくない態度だった。
アトリアはいつも落ち着いていて、三人の中では一番大人っぽい。そのはずなのに、落ち込んで泣いていた。
メイベラはそんなアトリアを慰めて頭をよしよししていた。
「二人ともどうしたの?」
「えーと、私が面白い場所があるって連れていったのは良いんだけど……」
「それはどこなの?」
「…………ポニーレース」
「あ〜」
何が起きたのかすぐに理解できた。
メイベラが話したポニーレースとは、簡単に言えば競馬だ。
競走馬の代わりに小さなポニーがレースするのだが、どのポニーが勝つか賭けることによってお金を得ることができる。
「50万ガレ全部失いましたあぁぁぁ〜っ!」
「アトリアったら何してるのよ。らしくないわね」
「……私もそう思ってたんだけどね、アトリアが次こそ当たるって言って手持ちがなくなるまで賭けたら……」
アトリアはギャンブルさせちゃいけないタイプだな……。
「ていうか二人はどうしたの、その大きな袋は何?」
「ああ、これか──」
メイベラに指摘された部屋に持ち込んでいた大きな袋。
俺はその袋からスロットで儲けた景品を取り出す。
そして、儲かったことを二人に話した。
「えぇぇぇぇぇぇ!! 何この武器! 絶対ヤバいやつじゃん! 強そう!」
メイベラは三つの武器を見てすぐにその価値がわかったようだ。
「お二人は私とは違ってそんなに儲けて……すごい運をお持ちで……」
「…………」
今のアトリアの前で運ではないとは言えなかった。
「とりあえず二人とも、この『魔除けのピアス』と『身代わりの腕輪』をつけておいてくれ」
「なんだかあまりお洒落じゃないピアスですね……ドクロ……。あら、お二人はもうつけてらっしゃる?」
「見た目はちょっとアレだが、これをつければ普通に眠れるようになる」
「え……?」
アトリアが不思議そうな顔をした。
「この街の住民の顔、見ただろ? あれは魔族の呪いだ」
「ええっ、そうだったんですか!?」
「今この街は魔族によって強制的に不眠状態にされている。そして見るはずだった夢を喰われ、自分の肥やしにしてるんだ」
「そ、そんな卑劣な……」
「寝れないなんてどんな苦痛……そんなのいつか死んじゃうよ!」
メイベラの怒りもわかる。
寝たいのに寝れないなんて本当に辛いからな。睡魔もちゃんとやってくるからエグい。
「これは勇者にも既に渡しておいた。そして回復次第、勇者たちと魔族討伐をしたいと思っている」
「勇者パーティーを見つけてたんだね」
「そうだ。勇者たちも不眠になってたから、明日まで待たなくてはいけないがな」
「さっすがカストル! 博識!」
メイベラは褒めてくれるが、ただのゲーム知識である。
「あと、アトリア。30万ガレだけ渡しておく。もうポニーレースはするなよ」
「ええ!? いいんですか!? 神様ですか!?」
「スロットで儲かったコインが相当余ったから換金したんだ。使える時にお金ないと困るだろ」
「カストルさん〜〜〜〜っ」
「おいアトリア! あまりカストル様にくっつくな!」
「うえ〜〜ん!」
アトリアはお金を渡すなり、俺の腰に泣き縋るように掴んできた。
それを見たエステルがアトリアを引き剥がそうとしていた。
◇ ◇ ◇
翌日の朝、勇者が泊まる宿へと四人で向かった。
「──あ! カストルさん! おはようございます!」
すると、宿の一階の食事スペースで元気よく朝食を食べている勇者ステラがこちらに気づくなり、明るく手を振ってきた。
不眠状態から回復したようだ。
「皆良くなったようだな」
「も〜助かったよお。あのまま寝られないんじゃないかと思ってたから」
「私たち皆、昨日の昼から今日の朝までずっと眠ってたんです」
「だから、お腹が減ってしょうがなくてな!」
魔法使いのミラ、僧侶のシャム、戦士のアンセルも元気そうにご飯を食べていた。
俺たちのパーティーに加え勇者パーティー全員が『魔除けのピアス』をしていた。全員が耳にドクロのモチーフのピアスをしているわけだが……なんだか凄く怪しい。
「それはなりよりだ。食事しながらで良い、今後の話をするから聞いてくれ──」
俺は魔族のハマルの正体と討伐の話をした。
本当なら住民への話を聞いていくうちにハマルの正体に辿り着くストーリーなのだが、眠れずに苦しそうな住民を見ると一刻も早く解決したいと思ってしまった。
だから俺はいち早く解決する手段に出た。
「…………カジノのオーナーですか……」
ハマルの招待がカジノのオーナーだと教え、驚きの表情を見せた勇者ステラ。
「ああ、やつは実際に戦っても厄介な魔法を使う。ヒプノス——眠りの魔法だ」
「ヒプノス……」
この魔法はどんなにレベルを上げてもかかる時はかかってしまう魔法。つまり確率ランダムの状態異常魔法だ。
少しすれば目覚めるが、その間は無防備。かかった仲間を他の仲間が守らなければいけない。
『アスクエ7』はターン制のゲームだったが、ここはターンなどがない。しかしこれまでのこの世界での戦い方から、ターンに近い法則で攻撃してくることは通常の魔物と戦ううちに理解している。
「ステラ。お前にこの剣を渡しておく」
「え……私にですか?」
俺は『ヒカネのつるぎ』をステラに渡した。
「こ、これは……っ! 思った以上にかる——わああっ!?」
「うおおっ!? 俺の兜がああ!?」
「あ……」
ステラに『ヒカネのつるぎ』を持たせてみると、その場で軽く振り始めた。
思いの外軽かったのか、勢い余ってアンセルの兜を真っ二つにしてしまったのだ。
「切れ味おかしくありません!?」
「……まあな」
「ここ、こんなに危険な剣、私にはまだ扱えません。カストルさんにお返しを……」
「ふむ……なら常用はしなくてもいいからとりあえずいつも腰に携えておけ。いつかきっと役立つ時がくる」
「そこまで言うなら……ありがたく受け取っておきますね」
物語終盤まで使える『ヒカネのつるぎ』は、最強格の武器の一つとも言われるほどだ。最終的には『星鳴の剣』と呼ばれる伝説の武器を手にした時の方が勇者は強くなるが、『ヒカネのつるぎ』を持たせておけば、やばくなった時に身を守ることに役立つはずだ。
ちなみに『ソーンメタルレイピア』と『プラチナブレイド』はエステルと俺が予備の武器として所持している。
「よし、じゃあ動くのは今日の夜中0時。街から少しだけ離れた場所にあるオーナー住む屋敷の近くに集合だ」
「わかりました!」
攻略の流れを説明したあと、俺たちは一度解散した。
◇ ◇ ◇
その頃。自分の屋敷で起きた『夢喰い』のハマルは違和感を覚えていた。
「ふむ……おかしいですね。昨日までは見れていた勇者たちの夢がない……どうしてでしょうか」
ハマルは人の夢を覗き見ることができるため、夢がないイコール自分のかけた呪にかかっていないとわかるのだ。
そして人間の街にある物品などに興味のかけらもないので、自分を攻略するアクセサリーが景品として置いてあるなどと思うわけもなかった。
「もう一晩様子を見ましょうか……それでもし勇者の夢がなければ……こちらから動きましょう」
ベッドから出たハマルは高級なパジャマからスーツに着替えた。
昼からオープンする予定のカジノへと姿を見せるための準備に入った。
カジノの営業時間は昼から朝までだが、ハマルは日中しか顔を見せない。
意外と人間的な暮らしをしていて、今の暮らしにとても満足していた。
「これを使う機会はないとは思いますが……心に留めておきましょう」
部屋の隅。棚の上に置いてあったのは、赤色の液体が入ったビンだった。
『——ハマル様……これを。改良版となります』
「少し前に姿を見せたあの黒いローブの魔族……誰なのかはわかりませんでしたけど……私に協力してくれるのであれば、有効活用してあげましょう」
ハマルはスーツに着替えてビシッと決め、トレードマークのサングラスを装着すると屋敷を出た。
負けイベで推しキャラを全力で救ったら、激重の愛が着いてきた 藤白ぺるか @yumiyax
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