第3話 魔法剣士エステル②
彼を必死に運び、最寄りの街テラミシアまで運んだ。
途中、魔物とも戦いながらの帰路だったため、相当に体力を削られた。回復魔法や薬草でも傷は治るが体力は回復しない。それでも私は彼を生かしたくて必死になって運んだ。
アトリアもメイベラも恩を感じていたようで、交代で背負っていった結果、なんとかテラミシアまで帰ることができた。
まず先に駆け込んだのは教会だった。魔力が尽きていた私たちでは、どうすることもできなかった彼の傷。見るに耐えないほど切り刻まれ出血していて、早く治療しないと手遅れになると頼み込んだ。
そこにはマリヤと呼ばれる僧侶職のシスターがおり、奥の部屋に通してもらい寝台に寝かすと彼女に完全回復上級魔法『フルリケア』をかけてもらった。
彼を強い光で取り囲み徐々に傷が癒えていく様子が見えた。
しかし——、
「——回復が、遅い……?」
『フルリケア』は瞬時に全ての傷を治してくれるはずの魔法だった。
しかし彼の背中の傷の治りが想像以上に遅く、そして治癒が途中で止まってしまった。
「——その魔族からの攻撃が原因かもしれません。回復してもこの傷は残り続ける可能性があります」
マリヤの診断を聞き、私は歯を食いしばることしかできなかった。ただ、一命は取り留めたようなので、ひとまず安心した。
その後、宿を取って彼をベッドに寝かせると、やっと私たちも休みと食事を取ることができた。
◇ ◇ ◇
翌日。
彼の身分がわからなかったために、持っていた荷物を確認させてもらった。
ギルドの身分証に記載されていた名前はカストル。年齢は私と同じ二十二歳だった。確かに見た目からもそのくらいに見えたが、あの凄まじい強さは年齢にそぐわないものにも見えた。
「カストル……様……」
同い年なのに、なぜか彼のことを敬称で呼んでしまっていた。
そして名前を呼ぶと、自分の体の中に染み込むようにして、彼が重なったように思えた。
私はずっと『孕みババア』の言葉が頭に残っており、本当に彼が運命の相手なのかと、ベッドで眠る彼の姿に魅入ってしまっていた。
黒髪は世界を旅してきても目撃した数は一握り。出会う確率も低いはずなのに、私の前にこのタイミングで現れたとなれば、それは気になってしまっても仕方ないだろう。
そんな彼には毎日アトリアの回復魔法をかけてもらった。治癒が止まったと思われたが、よく見ると少しずつだが良くはなっているようだった。
私たちは彼が目覚めるまでこの街に滞在することにし、私の日課が彼の看病になった。
そしてアトリアとメイベラがいない時、独り言が増えた。
「カストル様……いつ起きるんですか? まだ私、感謝を言えてませんよ?」
「今日は晴天です。こんなに気持ちが良いのに早く起きないと見逃しちゃいますよ」
「ちょっと聞いて下さい。メイベルったら今日ギルドにいた冒険者と喧嘩したんですよ。もうあの子ったら……」
「体に汗が……拭いちゃいますね。あとは下着も交換しないと…………ぁ」
「スーハー、スーハー……これがカストル様の匂い……」
「カストル様……起きないとキスしちゃいますよ……知らない女に唇を奪われても良いんですか?」
「カストル様カストル様カストル様カストル様カストル様……」
私は看病しているうちに深く深く彼に心を奪われていた。普通ならこんなことはあり得ないないだろう。でもこの一ヶ月間、毎日看病したお陰で私はそうなってしまったのだ。
だから、今までに感じたことのない感情だって生まれてきてしまった。
「——カストルさまぁ……いつ……いつ起きるんですか。私、こんなに待ってますよ。あなたにいつ感謝を伝えれば良いんですか……?」
カストル様が意識を失い、二十日が経った頃からだ。
私は縋るように涙するようになった。
息はしているのに、傷だって治ってきたのに。
それなのに、一向に目を覚まさない。
だから、だから……彼が目覚ました時にはもう我慢ができなかった。
一ヶ月が経過したある朝のこと。
予備動作もなく、突然彼の瞼が開いた。
「——カストル様カストル様カストル様カストル様カストル様っ!!」
私は感極まってしまい、これでもかと彼の名前を呼び、手を強く握った。
「ぁ————エステル…………」
どうしてか彼は私の名前を知っていて。
でも、理由はわからなくても名前を呼ばれたことが嬉しくて、小さな疑問はどうでも良くなった。
彼の無事だった姿を見て、私は彼に対して強い愛情と共に、魔族に対して強い憎悪が生まれたのを理解した。だから——、
「カストル様っ! 私、一生あなたに尽くします! もう絶対にあなたをこんな目に遭わせません! そして、あの外道魔法使いは私が必ずぶち殺して見せます!!」
私はこの瞬間に全てを決めたんだ。
これから一生をかけてカストル様に尽くす。そして、強くなって、彼に傷を負わせたアイツを必ずこの手で殺してやると。
「——ああ、頼んだ……」
汚い言葉を使ったのにも関わらず、カストル様は優しい笑みで私に相槌してくれた。
優しい。なんて優しいのだと。私はどうしようもなくなってしまった。
だから後は今まで溜めてきた彼への気持ちを吐き出すだけだった。
「カストル様カストル様カストル様カストル様カストル様っ……カストル様ぁぁぁぁぁっ!!」
それからのことだ。
彼に食事を食べてもらうことがとても嬉しくて。片付けまでしたあと、彼が使ったスプーンを口に含んでしまった。
だって一ヶ月も毎日彼を見てきて、色々な想いを我慢してきたんだから。でもこれは彼には言えないな……ちょっと恥ずかしいから。
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