第7話 ここから俺のラブコメが⁉

 その日の夕方、長かったキャンプもようやく終わり全員が学校に集合させられた。


「皆さん!キャンプは家に帰るまでがキャンプですよ!」

(そして中田加奈は無事、初担任クラスのオリエンテーションキャンプを終えたのだった!めでたしめでたし)

(この人、まだこのナレーションやってたんだ……)


 これからはテレパシーを使う回数をよく考えないといけない。何度も練習すれば脳も鍛えられていくだろうが、また外でぶっ倒れるのはごめんだ。


「週明けには入学式、それから早速授業が始まります。みなさんしっかり準備しておくように、では解散!」


 その掛け声と同時にがやがやと騒ぎだす現場。グループで固まって喋る者もいれば、そそくさと一人で帰っていく者もいる。

 俺もそれにならい、一人でさっさと帰ろうとしたのだが……


「安志くん健三くん、ちょっとどこか寄ってかない?」


 なんと野々花とこごみが俺たちを誘ってくれたのだ。


「えっいいけど……」


 これは、高校生活の青春スタートダッシュを決めるチャンスなのでは?


「じゃあこの近くにファミレスが」

「あっ、ちょっとまって」


 すると突然、健三が財布の中を探し始める。


「俺帰りの電車賃くらいしかなくて、ファミレスとか入るのは厳しいかも……」

「じゃ、じゃあ俺の家来る?下宿してるからすぐそこなんだよ」

「えっ行きたい行きたい!みんなも安志くんの家でいいよね」

「うん、私も」

「俺も、行っていいんだったら」

(やった…やったぞ!ついにうちに女の子が来る!それも2人も!)


  *


「こ、これが安志くんの下宿先…?」

「ああ、そうだよ」

「誰かと一緒に住んでるの?」

「いや、俺一人だけど」

「家族とか、よく泊まりに来るのか?」

「ううん、家ではずっと一人」

「…安志くん、家庭環境複雑だったりする?」


 多分、一般的な感覚からすると、この光景を見て不思議に思うのは仕方ないだろう。

 なぜなら俺が養親から与えられた家は、家族4人で住むような一軒家だったからだ。


「えー!中に入るともっと広く感じる!」

「ねえ、屋上とか出れるの?ここなら天体観測とかよくできるんじゃない?」

「すげぇ、俺の部屋なんて6畳くらいだぜ」

「もう私もここに住まわせてもらおうかなぁ」

「俺も、ここなら電車賃もかからないし」

「いやいや、ちょっとそれは無理なんじゃないかな……」

「うわぁー!おっきいソファだ!」


 リビングに案内した途端、ソファに飛びつく野々花。その横にこごみもちょこんと座る。


「あ、汗だくの服でソファに座っちゃまずかったかな?」

「いや全然、俺は気にしないよ」


 冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、4杯のコップに注いでいく。


「わー、一人暮らしの家にオレンジジュースあるなんて。さては安志くん、お金持ちだね」

「私の家もリンゴジュース置いてるよ」

「みーみは実家でしょ」

(これが…これが青春というやつか!)


 感慨に浸っているその時、突如頭の中に声が聞こえた。


(安志、私だ。君の養父だ)

(えっ?どこから声が⁉)

(2階の書斎にいる。お友達は連れず一人で上がってきなさい)

(わ、わかったよ……)


「ごめん、ちょっと上で用事済ませてくるから、適当にお菓子でも食べといて」


 そう言って俺は駆け足で2階の部屋へと向かう。その書斎にはカギがかけられており、ノックをすると鍵が開き、ゆっくりと扉を開ける。

 中には2体のエイリアンが背を向けて立っていた。


「お、お義父さん、お義母さん……」

(ようやくそう呼んでくれたね。嬉しい限りだ。我が息子よ)


 手術の日以降、養親が俺の目の前に現れることはなかった。なのになぜ今になって、こんな一般人の近くで姿を現した?


(なぜテレパシーを使わない?せっかく授けてあげたのに)

「ああ、そのことか……」


 俺は合宿中、テレパシーを使い過ぎて倒れてしまったことを話した。


(なるほど、確かにそれはテレパシーが脳に負担を及ぼしたと考えざるを得ない)

(それでは確かに、学校生活に影響を及ぼしてしまうかもしれませんね)

(まだ脳がテレパシーという技術に追いついていないのだろう。必要なのは訓練だ。試しにここから、下にいる3人の思考を読み取ってみると良い)


「う、うーん……」


 神経を集中させ、3人の居場所を明確にイメージする。

 すると少しずつ、3人の声が聞こえてきた。


(永利くん優しそうだし、入学前に友達できて良かった~)

 これはおそらく健三の声だ。


(うちは都会だから星なんてほとんど見えないけど、ここなら夜には結構な天体観測が出来そう!)

 これは、きっとこごみさんの声だ。


(安志くん、ちょっとカッコよかったなぁ。彼女とかいるのかなぁ)

「えっ⁉」


 その声を聴いた途端、一気に意識が途切れて何も聞こえなくなってしまった。


(おや、一人安志のことを気に入っている女の子がいるみたいだね)

(よかったじゃない安志、自分を好いてくれる人がいるのはとても素晴らしいことなのよ)

(まさか、まさか俺のラブコメはここから始まっていくのか⁉)

(ラブコメって、何のことだい?)

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