第6話 意外な一面

「…うう、ああ?」

「永利くん、気が付いたかな?」


 目を覚ますと、目の前にいたのは中田先生。どうやら俺は先生たちの部屋に運ばれたらしい。


「目を覚ましたところ申し訳ないけど、君には怒らないといけないことと、謝らないといけないことがある!」

「は、はい……」


 俺は起き上がると同時に自然に正座の姿勢を取った。


「まず怒らないといけないこと。それは就寝時間だというのにクラスメイトを引き連れて3年生棟の方に集まっていたことです。ちょっと浮かれすぎてるんじゃない?」

「はい、すみませんでした……」


 中田先生は今心の中でどんなナレーションを入れているのだろうか。気になるところだが、未だに頭が痛くてうまく意識を集中できない。

「それから謝らないといけないことは…和田くんの事。せっかくのオリエンテーションキャンプなのに、怖い思いをさせてごめんなさい。あの子にリーダーを選んだ私のミスだった」

「いや、俺は別に怖い思いなんて」

「だって、気を失うくらい和田くんに暴力を振るわれていたんでしょ?」

「えっ?」


 俺はただ突然頭がくらくらして倒れただけなのだが、どうやら変な勘違いをされているらしい。


「ち、違いますよ!俺はただ突然めまいがしてそれで——」

「きっと和田くんに体を揺さぶられたからだよ。和田くんには今他の先生たちが説教に向かっているところだから」


 大きな勘違いだ。だがあのクズ男がそんな目に遭っているのかと思うとちょっと嬉しい。

「まあとにかく今日は大変だったな。部屋に戻ってゆっくり休みなさい」



 そして翌日、朝から班ごとに朝食を食べるのだが、和田の姿はそこになかった。


「それではみなさん、いただきます!」

「「いただきまーす」」


 朝食は焼き立てのパンとハムエッグ、サラダにヨーグルトと学校らしいバランスの取れたもの。

 合宿所で食べる食事はどれも特別感があり、特にすぐ側の窯で焼きあげられたばかりのパンは、朝はご飯はの俺にとっても食べ応えを感じる。


「永利くん、昨日は大丈夫だった?急に倒れてびっくりしたよ~」

「私も、話を聞いただけだけど心配だった」


 野々花もこごみも、昨日よりどこか打ち解けたような、壁が一つとれたように話しかけてくれる。

 一方大きな壁ができたのは、相方の和田が消えた古谷の方だった。


「な、なんかうちの和田が迷惑かけちゃったみたいでごめんね~。あいつも反省してるから許してやって」

「ふーん、そうなんですか」

「…は、ははは」

「……」

「……」


 古谷がいるせいで、どこか空気がぎこちない。


「そ、そういえばみんなはクラブどこに入るか決めたの?」

「うちはやっぱり女バスにしようかな~って思います」

「お、俺はここに入ったらラグビーをやりたくて」

「加島くん、結構ガタイいいもんね~」

「こ、こごみちゃんは?」


 古谷からそう話を振られると、こごみはどこか気まずそうにしていた。


「えっと、私は——」

「みーみは天文部に入るんだもんね」

「あ、ちょっと!まだ決まったわけじゃ」

「だってみーみ、昔から宇宙人とかの話が好きで」

「えっ、そうなの⁉」


 宇宙人と言う言葉を聞いて、思わず俺の方が反応してしまう。


「も、もしかして永利くんもUFOとか、好き?」

「あーいや、好きっていうかなんというか……。まあ宇宙人はいるとは思ってるけど」


 するとこごみは同志を見つけたからなのか、一気に饒舌に話し始めた。


「やっぱりそうだよね!この広い宇宙で知的生命体が地球にしかいないっていう方が無理ある話だし、専門家はみんな宇宙人はいる可能性が高いって言ってて——」


 おとなしい委員長系キャラから一変し、オタクのように早口で喋り出すこごみ。


「あー始まっちゃった。こごみのオタク話」

「わ、私はね、いつか自分で宇宙人を見つけるのが夢なの。子どもっぽいから、あんまり他の人には言えなかったんだけど」

「ああいや、素敵な夢だと思うよ」

(うん、いるよ。宇宙人……君が思っているよりだいぶ近くに)


 7人数珠繋ぎすれば世界のどんな人とも繋がれる、という話を聞いたことはあるが、まさか2手で宇宙人に辿り着くとは思っていないことだろう。

 もちろん、それを教えることはできないが。


「永利くんは?どこの部活に入るの?」

「ああ、俺は……」

(俺は、何をやりたかったんだっけ……?)


 よく考えると、エイリアンが養親になったことで頭がいっぱいで部活のことなど何にも考えていなかった。

 中学の時は一応運動部に入っていたが補欠。特にスポーツがやりたいわけではない。

(テレパシーが使えることを考えたら、相手の思考が読めるバスケとか野球とかか?)


 しかし、部活に入って青春を謳歌したい気持ちもあるが、一番大切なのは養親の言っていた通り大学に入ること。そのためには勉強を一番にしなければいけない。


「俺は入りたい大学があるから、勉強優先にしたいと思ってる」

「へ~、結構真面目なんだね」

「だ、だったら一緒に天文部に入ろうよ!受験に役立つ知識も」

「はいはい、みーみはちょっと黙っておこうね~」

「け、結構穂浪さんって面白い人なんだね……」

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