第5話 やり返せ!
「——以上がわが校の創立理念についてだ。初めてこの学校に足を踏み入れた君たちにとって、良き学びになったことを期待する」
(そういって中田加奈は、初めての授業を華麗に終えたのだった!)
(この人、このくだりいつまでやってるんだろう……)
「じゃあみんな速やかに1年生棟に戻るように。くれぐれも夜更かしはするんじゃないぞ」
長かったオリエンテーション授業が終わり、さすがにみんな眠たそうにしている。
「あの佐川さん、ちょっといいかな?」
俺は久々にかなり勇気を出して、女子に声をかけた。
「なになにどうした?うちに何か用?」
「実は、さっき和田先輩に声をかけられて——」
*
「あっ、野々花ちゃん来てくれたんだ!」
「ああ、まあはい……」
「あ、あれ、なんか機嫌悪い?」
明らかに迷惑そうな顔をしている野々花。昼間とは打って変わったような態度に、和田も驚きを隠せていない。
「ああすいません。もうちょっと眠くって」
「あ、そうだよね。ごめんごめん。すぐ終わるからさ」
しかしこんなに近くに潜んでいても気が付かないものか。和田はおそらく、野々花のことに精いっぱいで周りに気が行っていないのだろう。
「…実は野々花ちゃんに一目ぼれしたんだ。俺と付き合ってくれないか?」
「えっ無理ですけど」
「うん、これからよろしく…って、はい?」
「いやだから、無理です」
まさかこの男、万が一にも断られることはないと思っていたのだろうか。あり得ないというふうに戸惑っている。
「あの、もう戻っていいですか?先生に見つかったら怒られ」
「いやいや、行かせないよ!」
去ろうとする野々花の手を強く握る和田。
「ちょっと、やめてください!」
「俺バスケ部のエースだし、自分で言うのもなんだけど結構イケメンだろ?」
「知りませんよ、うちイケメンとか興味ないんで」
「いいのか?こんなことして。これから楽しい学校生活を送りたいんだろ?」
来た、和田の秘密兵器、脅しだ。
だが野々花にはそんな手は通じない。なぜなら——
「やっぱり、永利くんの言ってた通りだ」
「え、永利?」
「正直印象悪かったんですよ。朝から女の子にしか声かけてなくて、永利くんたちのことは無視してて」
「えっ?は?」
「前の彼女ともエッチなことしてくれないから別れたんでしょ?入学してすぐの子をいやらしい目で見るの、本当に気持ち悪い」
「な、なんでそのことを!」
(もしかしてあの陰キャ野郎がテキトーなことぬかしやがったのか!明日覚えてやがれ)
だが残念ながら、明日大変なことになるのは和田の方だ。
「和田先輩、おめでとうございます!」
「「カップル成立おめでとう!」」
僕の合図とともに、たくさんのクラスメイト達が飛び出してくる。
「な、なんなんだよお前ら!」
「何って、和田先輩が佐川さんに告ってOKしてもらったんじゃないんですか?」
すっとぼけたようにそう尋ねると、和田は急に顔を真っ赤にし出した。
「いや、ふ、フラれたけど……」
「ええっ⁉フラれちゃったんですか⁉」
ざわつく出すクラスメイト達。だが当然これは俺の計画通りだ。
「和田先輩イケメンだから、てっきり告白は絶対成功すると思ってました!」
「ふ、ふざけんな!お前が野々花ちゃんに変な事吹き込んで」
「いや、うち普通にあったばかりの人と付き合いませんから」
「なっ……」
時は少しさかのぼって、オリエンテーション授業の直後。
「和田先輩が私に告白しようとしてる⁉」
「えっ、何々、誰が告白されるって⁉」
恋愛話になった途端、今日会ったばかりという他人の垣根を越えて仲良くなり出すのが早い。
「え~私そんなにモテちゃうのかな?」
最初は野々花も結構乗り気だった。バスケ部のエースでイケメンの先輩と言えば、舞い上がってしまうのも仕方ない。
「でも和田先輩、お風呂で嫌なことも言ってたんだ」
それから僕はテレパシーで読み取った和田の心の内を全て、こっそりと野々花にだけ打ち明けた。
「——そういうことだから、和田先輩はちょっと危ない人なんだ。気を付けてほしい」
「…うん、わかった。確かに今日ずっと、永利くんたちには声かけてなかったし、女好きなのかも」
「付き合う付き合わないは佐川さんの自由だけど、ちょっとだけ、俺の言葉も気に留めておいて欲しい」
「わかった。とりあえず様子を見てみるね」
「何々、もしかして初日でカップルが成立するのか⁉」
僕の計画はここまでだったのだが、あまりにも周りが盛り上がり過ぎている。じゃあカップルが成立したときに備えてみんなで隠れてみておこうと言ってみたら、みんな喜んでついてきた。
そして時間が戻り、今和田は1年生たちの目の前で野々花にフラれ放心状態になっていた。
「先輩の悪い噂、全部永利くんから聞いてましたよ。もううちに話しかけないでください」
「永利…永利てめえこの野郎っ!」
「きゃあ!」
突然僕に掴みかかってくる和田。振り払おうとしたその時、目の前の景色がぼやけだした。
(あれ、なんかおかしい…頭が、働かない……)
急に意識が遠のき、腕にも足にも力が入らない。
(もしかして、テレパシーで脳を使い過ぎた影響なのか⁉)
「永利くんどうしたの⁉先輩離してあげてください!」
目の焦点が合わない。気づけば俺は地べたに膝をつき、そしてようやく和田の手が離れる。
「永利くん、永利くんしっかりして!」
俺はそのまま、皆の注目する前で意識を失った。
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