第2話 お約束

「…ん?ああ、夢か」


 目が覚めると、俺はベッドの上にいた。


「エイリアンが親になるなんて、俺はどうやら疲れているみたいだな」


 そう呟いて立ち上がろうとしたのだが……


「あれ?体が、動かない⁉ていうかここはどこだ⁉」


 よく見ると目の前にあるのは家の天井ではない。ベッドの寝心地もなんだか悪い。それになにより、俺の手足が枷でつなぎ留められていた。


「なんだよこれ!ふざっけんな!」

(落ち着いてください、永利安志えいりあんじくん)

「な、なんだ⁉急に頭の中に声が」

(安心しなさい。もう手術は終わりましたよ)

「お、お前らは……」


 首を横に向けると、先ほど夢の中で現れた2体のエイリアンが立っていた。


(お前、という言い方は良くありませんね。養親とはいえ親に対してその言葉遣いは)

「親⁉お前らなんか親じゃねえ!ていうかさっきからどうやって喋ってるんだ⁉」

(これはこの星で言うテレパシーです。相手の脳波を読み取り、自身の脳で言語化して紫光を読み取り、コミュニケーションを取ります)

「テレパシー…?」

(今しがた、安志くんにもテレパシーが使えるよう手術を行いました)


「手術⁉そういえばさっきもそんなことを」

(これってまさか、映画とかでよく見るエイリアンに捕まって実験体にされる——)

(そう恐ろしい物ではありません。これは安志くんの生活にとって非常に価値のあるものになるでしょう)

「うわっ⁉なんで俺の頭の中が」

(それがテレパシーですから。あなたはこれから、周りの人々の考えていることが手に取るようにわかります)


 何が何だか分からないが、あまりこのエイリアンに敵意はないように感じる。


「て、テレパシーのことはもういい・それよりお前らが俺の親になるってどういうことだよ」

(この国には、他人の子を自分の子として引き取る養子という制度があるのでしょう?)

「そ、それはそうだけど」

(私たちは人類の子どもが欲しかったのです。そしてあなたたちの親は会社をクビになり、お金に困っていた。だから養子縁組を持ち掛けたのです)

「じゃ、じゃあさっきのは夢じゃなかったってことか…?」


(いやいやいや、そんなのあり得ない!きっと今もまだ夢を見ているんだ)

(夢ではありませんよ。これは現実。安志くんには多少、受け入れる時間が必要かもしれませんが)

(あなた、そろそろ手足のロックを外してあげましょう。これでは私たちの子どもが可哀そうだわ)

(おっと、これは申し訳ない)


 ガチャリ、という音とともに俺の手足はようやく自由になった。


「そ、それでお前らは俺をどうしようってんだ?」

(どうするつもりもありません。ただ普通の人間として元気に育って行ってもらえれば)

(い、意味が分からない…そんな気まぐれで地球人の子どもを育てるなんてこと)

(気まぐれ、とこの国の言葉では言うのでしょうか?とにかくワレワレは安志くんにも、人類にも害を及ぼす意思はありませんよ)

「それなら、まあいいけど……」

(ただし、安志くんにはいくつか約束を守ってもらいます)

「約束?」


 エイリアンは指を1本立てて続けた。


「まず、生活は私たちの用意した家を用いること。ご家族と暮らすことはできません」

(そんな、じゃあ父さん母さんとはもう一生——)

(もちろん休みの日に寄生するのは構いません。あくまで下宿中の学生を演じてください)

「な、なんだ……」


 次にエイリアンが2本目の指を立てる。


(そして次に、ワレワレの存在は絶対秘密にすること)

「それは当たり前っていうか、信じて貰えるわけないだろ」


 そしてエイリアンは3本目の指を立てる。よく見るとエイリアンは指が6本あるらしい。


(そして3つ目。これが一番難しいかもしれません)

「難しい、こと……」

(安志くんには高校卒業、そして大学受験を乗り越え、大学を卒業してもらいます)

「な、なんだよ、そんなことか……」


 てっきり世界を救えとか壮大なことを言われるのかと思ったが、それなら日本国民の多くがクリアしていることだ。


「それくらい俺なら余裕で——」

(あ、失礼。もう一つありました)

「えぇ……」

(学校では友達をたくさん作って、豊かな学生生活を送ってください)

「うっ……」


 これがある意味、俺にとって一番難しいことかもしれない。


(テレパシーを使えば人間がどのようなことを考えているのか簡単にわかることができます。これなら友達作りの苦手な安志くんにとって、おおきな手助けとなるでしょう)

「なんで俺が友達少ないってことを!」

(ご両親から直接お聞きしました)

「あいつらか……」


 というかあの2人は、エイリアンに子どもを預けるなんてどんな神経をしているんだ。そもそもエイリアンが現れた時点で警察沙汰になったりしなかったのだろうか。


(それと、安志くんには後2つ、ワレワレの力を授けています)

「まだ何かあるのか?」

(これは安志くんの脳の変化が追い付いていないのでまだ使えないのですが、サイコキネシス、テレポーテーションの力がやがて使えるようになります)

「ええっ⁉そんな力まで⁉」


 どちらも人間なら誰しもが憧れる力だ。俺はもうすぐそんなすごい力が使えるように……


(ただし、いつ力が開花するかはわかりません。明日か、10年後か、はたまた死ぬまで開花しないかも……)

(あなた、そんな不安にさせる話はよしましょう)

(そうですね。急に様々な話をしてしまって申し訳ない。今日はゆっくり休むと良いでしょう。安志くんを新しいお家まで送ります)


 部屋の奥にある扉に向かっていく2体のエイリアン、いや2人の新しい両親。


(まずは入学前のオリエンテーションキャンプですね。さっそく新しい友達ができることを期待しています)

「友達か、できるかな……」

(ああそうだ、もしワレワレとの約束を守れなかった場合は——)

「えっ?」

(あなた、そんな話はよしましょう。ワレワレの子どもならきっとできるはずですよ)

(ああ、安志くんを信じることにしよう)

(いや、それは教えておいてくれよ……!)

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