【モブAの俺は負けたヒロインの機嫌取り】

@edotennsei

第1話


{ラノベ主人公なんて真っ平御免} 


五月、始業式や部活紹介などのスタートダッシュ行事も終わり、少しずつ目に見えぬクラスのグループが出来始めた。

もちろん、俺、柊ユカは馴染める訳もなく小学校からのぼっち歴を更新継続中だ。

だが、気にする事はない、俺には愛するものがあるのだから。

それがこちら、てってれー『負けヒロインが多すぎるん!』、この小説は素晴らしい、元々アニメから入ったのだが負けヒロインが本編で主役として登場し負ける生き様を書いている奇抜な考えの作品でぶっ刺さったのだ、おぉん。

バイト代を奮発した甲斐があったものだと自然と顔がにこやかになる、さて、次のページをめくろうと手を伸ばした時、後ろから大きな声が教室中に響き渡った。

「ふざっけんなよ!!何で今更韓国なんかに行っちまうんだよ!俺はその程度なのかよ!」

おぉおぉ、痴話喧嘩かーなるほどなぁ、確かに春は出会いの季節もあるが逆も然り、学校が違くなったりクラスが変わったり、それに対応しきれないカップルが別れるとも聞く、これも春の風物詩ってものだ、うんうん。

「私がダンスを頑張ってたのは蒼が一番知ってるでしょ、…応援してくれると思ったのに…」

「そりゃ応援したいさ俺だって!でもおかしいじゃんか!まだ韓国の事務所もオーディションだって決まってない!なれるかだってわかんないのに…それなのに俺と別れるほど今すぐ行くほどじゃないだろ!!?」

へー韓国ねぇ………は?韓国!!?

今の季節にか!?まだ高校始まって一ヶ月程度なんですけど??まだ初めましての人わんちゃんいるレベルなんですけど??

すると、彼女の方がふるふると肩を震わせ零す。

「…言わないでよ…」

そして溢れ出たように叫んだ。

「蒼がなれるかわかんない言わないでよっ!蒼が励ましてくれたんじゃない!お母さんにそんなんじゃなれる訳ないって言われて!私が泣いてた時に蒼が私ならできるよ、一番のファンは俺だって…!なのに…!なのにっっ!!」

「……碧」

「もうほっといて!!」

そして彼女の方が駆け出して教室へと出ていった、そして立ち尽くす哀れな彼氏の方。

「…やっちまった……」

あぁ、やっちまったな、元カノを学校始まって一ヶ月で作るのはキツイぞ、華の高校生活でネタとして元カノが着いてくるしこの一年間は覚悟して歩むべきだな、頑張れよ〜名前知らんけど。

さて、静かになったことだし本の続きをと読もうとした時、本の後ろから目線が届く。

ちらと目線を上にあげると振られた例の名前知らんけどの顔が近く来ていた。

「うわっ!?な、なんだよ…?」

「さっきの会話聞いてたんだろ…?」

「え、いやまぁ教室であんな叫ばれたら聞かざる負えないというか」

あれで聞こえないやつはマジで耳悪いか鈍感系主人公ぐらいだぞ。

「碧の奴…韓国に行くんだってよ」

「…ら、らしいっすねぇ」

思わず敬語になってしまった、いや敬語かも怪しい、だって失恋した後の人達って何するかわかんないもん怖い!

すると急に俺の机を叩いて思いの丈を叫ぶ。

「普通彼氏を捨てて韓国行くかよ!俺はそんなもんだったっていうのかよ!!」

ほら!ほら見た事か!急に叫んで急に机叩いた!!無機物に謝れ!俺の机は一心同体だぞテメェ!!主に寝たフリしてる時のな!!

「そ、そうだね…急な話で驚いたよ」

「だよなぁ!?しかも半月記念の時にこれとか…どうなってんだよぉ!!」

それはまた恐ろしい、てか半月記念とかやるものなのか、最終的に毎日なんちゃら記念とか言ってやりそうなことしてるからこうなるんだぞ、知らんけど。

「柊ぃ…俺どうすればいいかな…?」

え、俺に聞く?いやどう見たってお前の方が経験豊富だろ目を覚ませ小僧。

とりあえず何かそれっぽく答えとくかと口を動かした。

「今二人とも頭に血が上りすぎてるんだよ、お互いちゃんと冷静に話せるようにしてから向き合うべきかな」

「そうか……そうだよな!ありがとう柊!」

「…今の君なら冷静に話せるよ、追いな」

というか、正直目の前のお前のせいで注目の目が多いんだよ早く消えてくれ。

適当に言葉を掛けると「おう!」と嬉しそうに立ち上がりドアの前に立つと突然振り向いたので忘れ物か?と見つめると蒼がにはっと笑って声を出した。

「お前良い奴だな!また今度カラオケにでもみんなで行こーぜ!じゃっ!」

「え、あ、ちょっ」

すると駆け出して一瞬にして廊下に姿を消した。

そして置いてけぼりにされまるで教室内は嵐がいなくなったように静かであった。

真の陽キャ、春日井蒼、君に一言だけ言葉を残そう。

俺…カラオケとか行ったことないんだけど……。

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