魔法学校試験官の憂鬱な三日間
藤泉都理
魔法学校試験官の憂鬱な三日間
「おかしいよおかしいよねおかしすぎるよ」
ほうほうほう~~~と。
梟の鳴き声だけが不気味に木霊し、曲がりくねりながらも天空も大地をも喰わん勢いで伸び続ける不気味な大木があちらこちらに乱立し、気配はありながらも姿を見せない、不気味で狡猾で生物を喰らう魔法生物が多数生息する森。
通称、魔の森。
太陽の光がこの森に差す事は極々まれで、常に薄暗く、霧が立ち込める、基本的に立ち入り禁止の危険な場所であったが、立ち入る事ができる人も居た。
魔法学校の先生や、魔法学校の先生の許可を得た生徒、魔の森の管理員。
そして、七年制の魔法学校の三年生から四年生に進級する際の試験に挑む生徒と、生徒を見守る試験官であった。
複数居る試験官は通常、職務年数が十年以上の魔法学校の先生が務めるわけだが。
「なああんで私が試験官をしなくちゃいけないの!?」
べそをかきながら魔法の箒に乗って生徒を見守るのは、魔法学校の先生の職務年数半年の
今まさに三年生から四年生への進級試験を行っている魔法学校を卒業したてほやほやの、ペーペー先生であった。
「そりゃあさあ。私も三年生から四年生への進級試験で魔の森に足を踏み入れたよ初めて。でもさあでもさあ。私の時はチーム戦だったからね。三人一組で課題をクリアする試験だったからね。二人が優秀だったから生き残れてかつ進級できたのであって、私一人だけだったら即死だったからね。いやまあその前に先生が助けてくれただろうけどさあ。とにかく。その時だけだったからね。ここに足を踏み入れたの。二回目だからねここに足を踏み入れたの。先生になったら即刻最強になるわけじゃないからね。わかる?」
「先生」
「うん、何だい?」
「邪魔なので離れてくれませんか?」
三年生にして魔法学校で一番優秀だと噂されている
今年の進級試験は、一人で課題をクリアしなければならなかった。
課題内容は幽霊族からクリスマスツリーのキャンドルを貰う事。
「そんなひどい事を言わないでくれよ~」
「進級がかかっている大事な試験を邪魔している先生の方がひどいですよ」
「っぐ。そんな事を言われたら。私は。私は、」
「さようなら。ごきげんよう」
「あっ」
すたこらさっさと、魔法の箒に乗って去って行く貴理夜を、追おうかどうしようか悩んだ未来。いやこれは試験官として見守らなければならないだけだからと言い訳をしては、貴理夜を追ったのであった。
(まったく。しつこい先生だ。どうしてあんな役立たずを試験官にしたんだ。目障りこの上ない)
流石は歴史のある魔法学校の先生になれたわけか。
最速で飛ばしているのだが、ついてきている未来に、貴理夜は舌打ちしては無視する事にして、課題にとりかかるべく急降下した。
(幽霊族からクリスマスツリーのキャンドルを貰うだけとは。今年の進級試験は楽勝だったな)
木の根元に座り込んでいた幽霊族の前に降り立った貴理夜は、魔法の箒を魔法の杖へと変化させてのち、魔法の杖を顔の前に掲げては、幽霊族に敬意を込めて深々と頭を下げて、クリスマスツリーのキャンドルがほしいと願い出た。
すれば、幽霊族は出現させたクリスマスツリーのキャンドルを貴理夜へと手渡した。
ここまでは楽勝だった。
問題があるとすれば。
「さあ。始めようか」
幽霊族が完全に姿を消したのちに出現したのは、三角帽子の化け物であった。
貴理夜はクリスマスツリーのキャンドルを自室に通じている魔法の巾着に入れてのち、魔法の杖を構えては、即座に水の攻撃を放ったのであった。
「はあもう。流石は三年生にして魔法学校で一番優秀だと言われている貴理夜だ。魔法族への礼儀作法も、三角帽子への対処方法も完璧。まあ。問題なく、魔の森を出られる。いいなあ」
未来は懐から懐中時計を取り出しては蓋を開けた。
時計の針が指している数字は十五。
まだ課題をクリアないし放棄していない生徒が十五人も居るのだ。
つまり、まだ魔の森に居なければならないのだ。
「………うう。辛い。先生。辛い。もう帰りたい。でも半年で止めるってどうなんだろう? やっぱり、半年はちょっと。それに。先生頑張るって、先生に約束したばかりなのに。うう」
「………先生。未来先生」
「あ。流石は貴理夜。うん。三角帽子の化け物を鈴に変えられたな」
貴理夜が持っている真っ赤な球体の鈴を見ては、微笑を浮かべた未来。じゃあ、魔法学校への帰還魔法をかけるなと言いながら魔法の杖を向けたのだが、まだ帰らないと貴理夜は言った。
「修行も兼ねて、残ります」
「いや。残りますって宣言されても了承できないよ。決まりだからね」
「一人だと不安なんでしょう?生徒全員が終わるまで付き合ってあげますよ」
「貴理夜」
(っふ。この間抜けな先生を使って、滅多に入る事ができない魔の森でしか獲得できない薬草をごっそり収穫してやる)
ほくそ笑んだ貴理夜に気付かずに貴理夜の提案に感激していた未来はしかし、呪文を唱え始めた。
「先生。手が震えていますよ」
「うん。はは。情けないね。本当に。でも。先生だから。少しでも早く生徒を危険な場所から遠ざけないとね」
「別に俺は危険だなんて思いませんけど」
自分の身体が光り始めた貴理夜は、顔面蒼白の未来を真っ直ぐに見ながら言ったが、未来が呪文を止める事はなかった。
貴理夜は抵抗する事もできたが、未来の先生としての想いを汲み取って、素直に呪文を受け入れた。
「先生。死なないでくださいね。少しは見直したので、今日、一緒にディナーを取りましょう」
「うん。はは。楽しみにしてる」
呪文を唱え終えては眩い光に飲み込まれた貴理夜が姿を消したのち、未来は滂沱と涙を流しながら、近くに居るであろう生徒の元へと魔法の箒に乗ったまま、急ぎ飛翔したのであった。
「ははははは早く合流しなくっちゃ一人になりたくないからははははは早く!!!」
三日後。
「先生。俺、奢りますよ」
「………うん。ありがとう。でも。その前に。寝る、ね」
なかなか幽霊族に出会う事ができなかった生徒を見守る事、二日間。
その間に進級試験に挑んでいた生徒が全員魔の森から退出しており、最後に退出したのが、未来と未来が見守っていた生徒であったという。
「部屋までついて行きますが運びませんよ。気張ってください」
「うう。冷たい」
貴理夜は未来の横に並んで歩きながら、べそをかく未来を叱咤激励し続けたのであった。
(まったく、どちらが先生かわかったものじゃないな)
(2024.12.19)
魔法学校試験官の憂鬱な三日間 藤泉都理 @fujitori
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