第13話
「あ、それニイナちゃんの携帯?ちょうどいいや、番号教えてくださいよ」
「……」
「ニイナちゃん?聞いてます?」
「……」
「緊張してんのかな…じゃあ携帯貸して?僕の番号入れとくから、あとで連絡してくださいよ。僕仕事は二十二時までだから」
そう言いながら私が持っている携帯に手を伸ばしたその人に、私は咄嗟にそれを自分の胸へと引いて拒否した。
「…え?ちょっとちょっと、携帯貸してよ~。だって今口頭で番号言われたって覚えらんないでしょ?さぁほら早く、ニイナちゃん」
ひたすら手を差し出して催促してくるその店員に諦める気配は全くなさそうで、私は携帯を両手でぎゅっと握りしめながら気付けば深く俯いていた。
「ニイナちゃん?ていうか何でずっと黙ってるの?僕今仕事中だしあんまり時間ないんだよね。だから、ね?早くしようよ。だってそのためにここ来たんでしょ?僕も会いたかったよ、ニイナちゃん」
敬語が完全に抜けた…
そう思ったちょうどそのタイミングだった。
「おい」
今度は全く聞き覚えのないそんな声がすぐ近くから聞こえてきて、私は思わず顔を上げた。
そして驚きのあまり私はまた固まった。
私に詰め寄っていたその店員に今にも鼻先が触れそうな距離で詰め寄り声を掛けたのは、私がここで何時間も待っていたまさにあの人だった。
「煙草。くんねぇかな。いつものやつ」
独特の話し方で圧をかけるその人に、店員は「えっ、あっ、」と分かりやすく焦っていた。
「お前店員だろ?何してんだよ、ここで。今レジ誰もいねぇぞ」
その言葉に店内の方を見れば、レジの前には数人の客が精算待ちをしていた。
「あっ、やべっ!すぐ戻ります!」
店員はそう言ってすぐに店内の方へと走って行った。
その姿を彼はひたすらじっと目で追い、最後の最後までしっかり圧をかけていた。
その頃には私はもう店員なんてどうでもよくて、目の前にいるその人から目が離せなかった。
こんなに近くで見たことはない。
背、高いな…
しばらくしてその人がくるっとこちらに向き直ったから、私達は必然的に目が合った。
「嫌なら嫌って言った方がいいぞ?ああいう芋男に察してくれはどう考えても無理がある」
そんな声に、そんな喋り方なんだ…
見た目通りすぎる。
「…聞いてんのかよ?」
そう言って少し眉間にシワを寄せたその人に、ハッとした私は慌てて何度も頷いた。
そんな私に、その人の眉間のシワはより深くなった。
だから今度は慌てて胸ポケットのメモ帳とボールペンに手を伸ばした私だったのだけれど、
「山田ぁー!」
ちょうどそのタイミングでその人の向こうから大きな声が聞こえて、その人はパッとそちらを振り返った。
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