第12話

その日学校が終わると、私はそのまま自転車であのコンビニに向かった。


時刻は十六時だった。


まだいつもの時間より少し早いこともあり、彼はそこにはいなかった。


だけど早いに越したことはない。


まだ来ていないのか、今日は来ないのか。


さすがにこの時間ならもう来て帰ったということはないだろう。


自転車を敷地内の隅に停めて、私はそのすぐそばに立って何をするでもなくひたすら彼を待った。


時刻はあっという間に十八時を過ぎた。


そろそろかな…


もう二時間も立ちっぱなしで、一応外とはいえ店の敷地内ということもありここで人を待つのがなんだか申し訳なくなった私は、一度店に入り飴を買ってまたさっきと同じ場所に戻った。


それからしばらくして一度携帯を開くと、時刻は十八時半を過ぎていた。


遅い…今日は来ない日だったかな……


いやでもまだ分かんないよな…



やっと夏休みも終わりようやく会えると思っていただけに、なかなか諦めがつかず時刻は十九時になった。


外はまだ暗くはないけれど、とはいえそろそろ帰らないとお姉ちゃんやゲンちゃんが心配する。


場合によってはやっぱり自転車通学を反対されかねない可能性だってあるだろうし、一応ラインだけは入れておこうか…


そう思って再び携帯を開いた私が俯きそれに夢中になっていたその時、


「ニイナちゃん?」


聞き慣れない、だけど間違いなく聞き覚えのあるその声に、私は文字を打つ手をピタリと止めるとそのまま首だけを動かして左を向いた。


「やっぱり…!ニイナちゃんだ!」


満面の笑みで嬉しそうにそう言って距離を詰めてきたのは、ゲンちゃんやお姉ちゃんが警戒していたまさにあの変な店員だった。



「ニイナちゃあ〜ん」



あれ…?この人ってこんなに怖かったっけ…?


あの時は彼を探すのに夢中だったのとゲンちゃんがいたから特に何も思わなかったけれど、少なからず周辺が薄暗くなってきたのも相まって私はひたすら携帯片手に固まっていた。


「もしかして僕に会いにきてくれたんですか?」


「……」


「うわぁ、嬉しいなぁ。ほら、この前一緒にいた男の人すごい目で僕のこと見てきたから、もうニイナちゃんここに来れないんじゃないかって思ってたんですよ」


「……」


「ん?ニイナちゃん?おーいっ」


ひたすら静かに固まる私に、その店員はどんどん距離を詰めてきた。



“怪しい人とかに襲われても声が出ないんじゃあ助けも呼べないんだから”



でもこの人ここの店員だし、今だって制服を着ているから一応仕事中のはずだし…


少し目線を落とせば、その店員の持っている箒と塵取りが目に入った。


そうか…駐車場の掃除か…

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