第11話
翌日私は新学期を迎え、いまだ心配そうなお姉ちゃんとゲンちゃんに見守られながらなんとか自転車で学校に行った。
久しぶりの自転車は初めこそ少し違和感もあったけれど、少し走ればすぐに感覚を取り戻しスイスイ進むことができた。
“運動不足が気になってただけ”
自転車通学に切り替えた本当の理由はそれじゃない。
けれど私が運動不足なのは事実だし、自転車通学にすればそれが多少なり解消されるのも事実だ。
“あのコンビニにはもう行っちゃダメだぞ?”
ゲンちゃんは私のことを思ってそう言ってくれたけれど、今の私にそれを禁止しようなんて無理な話だ。
あの変な店員の文句を店長に言って行きづらくなるのも困るし、あのままこれからはゲンちゃんが毎日学校まで私を迎えに来てくれるのも困る。
だってそんなことをして、本当にあのコンビニに通えなくなったら私はこの先あの人に会えなくなる。
初めて見かけたのは半年程前。
だけどその存在に気付いてから放課後ゲンちゃんとの待ち合わせのためにそのコンビニに行けばかなりの確率であの人を見かけたから、実はもっと前から私達は出会いはしていたのかもしれない。
その人の何がそんなに私の目を引き付けたのかは自分でもよく分からない。
初めはなんとなく目で追う程度だったのが、目で追っていることに気付いたからなのか日に日にその人のことを考える時間が増えていった。
言わずもがな話したことはない。
声も聞いたことはない。
名前も知らない。
年齢も知らない。
分かるのは間違いなくお姉ちゃんやゲンちゃんよりも年上だということと、性別は男で、いつも作業着を着ていることからおそらく彼は外の仕事をしている。
そしてそれは夕方終わるらしい。
あとこれはあくまで私の予想だけれど、あの人はいつも徒歩でやってくるから職場がここから近いのだと思う。
もしくは家が近いか。
何処に住んでいるのかも知らなければどんな話し方をする人なのかも当然ながら私は知らない。
それなのに今となっては私の足はその人のためにあのコンビニに向かい、私の目はその人を探す。
見つければ意識の全てをそちらに向ける。
当然見かけない日も少なくはない。
昨日まで夏休みだったということもあり、登校日の一日目も会えなかったから今の私は丸々一ヶ月半もの間会えていない。
だから本当に、“マジでもう行くな”は無理な話だ。
変な店員がいるとか、そんなことはどうでもいい。
関係ない。
どこの誰かも分からないその彼に、私は会いたい。
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