第6話
身支度を整え外に出ると、すでに車にはエンジンがかかっていた。
ゲンちゃんが先に乗って車内の温度を下げてくれていたのだろう。
助手席の窓を小さくコンコンッとノックすれば、予想通り運転席で浅く座っていたゲンちゃんはドアのロックを解除するとともにしっかりシートに座り直した。
「よし、行くか」
私が車に乗り込むと、ゲンちゃんは私がシートベルトを着けるのを待ってからようやく車を発進させた。
毎朝こうして、学校がある日の朝は仕事に行くついでにゲンちゃんが私を学校まで送り届けてくれる。
そして帰りはさっき話していた学校の近くのコンビニまで迎えに来てくれる。
「ニイナ、お前部活楽しい?」
ゲンちゃんのその質問に、私はしっかりそちらに顔を向けて頷いた。
それをゲンちゃんも運転しながらパッとこちらを見て確認した。
「それは何よりだわ。でも姉ちゃん初めはめちゃくちゃびっくりしてたぞー?喋れねぇお前が演劇部って…イジメられて無理矢理入部させられたんじゃないかって」
「……」
何の反応もしない私に、ゲンちゃんは「そうなのか?」と言ってまたこちらをパッと見た。
だから私はすぐにブンブンと首を振った。
「そっか。ま、俺はお前を信じるよ。何かあればすぐ俺に言え?大事な義妹を泣かすような奴がいたらガキだろうと何だろうと容赦なく半殺しだ」
それに私が声もなく笑えば、ゲンちゃんも釣られるようにフッと笑った。
「お前の笑顔は癒されるよ」
それから学校に到着するまでずっと、私は窓から見える通い慣れた学校までの道のりをひたすら眺めた。
「よし、着いたぞ」
それに私は“ありがとう”の意味を込めてゲンちゃんに向かって両手を合わせ軽く頭を下げた。
「ははっ、もうそれいいって。どうせ仕事場と方向も同じなんだし。メモ帳とボールペンは?持ったか?」
ゲンちゃんのそれに、私は今着ている制服のシャツの胸ポケットを指差した。
「ん、持ってるな。帰りは?今日も迎えでいいんだよな?」
私はそれに頷いた。
「了解。学校の前に着いたらラインするからそれまで校舎から出るんじゃねぇぞ」
それに再び頷くと、私はすぐにドアを開けて外に出た。
いつものようにドアを閉めて窓ガラス越しにゲンちゃんに小さく手を振ると、私は校舎に向かって歩き始めた。
「ニイナ!」
それは車から三メートルほど歩き進めたところだった。
突然後ろから名前を呼ばれて振り返れば、まだそこに停まっている車からゲンちゃんは右足だけを外に出して身を乗り出していた。
「頑張れよー!」
私が手を振って応えれば、ゲンちゃんもすぐに私に手を振り笑顔でまた車に乗り込んだ。
再び背を向けた私は、ゲンちゃんの車の走り去る音を聞きながらもう目の前となった校舎の中へと入って行った。
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