第5話

「そういえばニイナまた部活で劇するらしいよ」


突然そんなことを口にし身につけていたエプロンのポケットからその案内の紙を取り出したお姉ちゃんに、ゲンちゃんはそれを受け取りながら「…あー…」と煮え切らない反応をした。


「今度は市民会館だって。前より大きいとこだよ?」


ゲンちゃんに向かってそう言ったお姉ちゃんは、今度は私に向かって「すごいね?」と言った。


それに私がニコッと笑えば、お姉ちゃんも嬉しそうに笑った。


「来月の第二日曜日だから、ゲンちゃんその日は絶対予定入れないでね」


「あー…あーあーあー」


やっぱり煮え切らない反応をするゲンちゃんは、ひたすらその案内の紙を見つめて固まっていた。


「ちょっとぉ、さっきから何その反応?」


お姉ちゃんのその言葉に、ゲンちゃんは紙から視線を上げたかと思うとすぐにこちらを見た。


「ニイナ、お前次は何の役?」


ちょうどご飯を食べ終わってお茶を飲んでいた私は、それを置いて再びホワイトボードを取った。


『小木』


「ずっと?ずっと小木?」


私はそれにすかさず頷いた。


「お前どうせ立ってるだけだろ?俺らそれ見に行くのか?」


その後半部分はお姉ちゃんに向かって投げられた。


だからお姉ちゃんは「そうだけど?」と当然だと言わんばかりに言葉を返した。


「で?ニイナ、その劇どんくらいあんの?」


『一時間半』


「傲慢じゃねぇかよ」


間髪入れずに言ったそれに、お姉ちゃんはすかさず「こら!」と言ってゲンちゃんの頭を軽く叩いた。


「義妹の晴れ舞台になんてこと言うのよ!」


「せめて裏方に回してくれりゃいいのになぁ?喋れねぇからセリフのない木の役でって、優しさなんだか嫌がらせなんだかよく分かんねぇわ。つかそもそも木にまで役があるって…幼稚園のお遊戯会かよ」


遠慮のないゲンちゃんに隣にいるお姉ちゃんは「ちょっと!」と重ねて怒っていたけれど、私は特に腹が立つことはなかった。


『私、小木の役嬉しいよ』


「ほら。ニイナがいいならいいじゃんかぁ」


「そりゃあいいけど…せめて大木であれよ」


『私より大きい男の子がやるから』


「へぇ、じゃあお前、当日までに激太りしてその日の朝役を交換してもらえ?」


そう言って意地悪く笑うゲンちゃんに、お姉ちゃんは「ゲーンーちゃん?」と怒った声で遠回しに咎めた。


「はははっ、冗談だって」


口ではどんなことを言ったって、結局のところゲンちゃんは必ず来てくれる。


私のためももちろんあるのかもしれないけれど、どちらかというとそれは行きたいと言うお姉ちゃんのためなのだと思う。



お姉ちゃんの彼氏がゲンちゃんで本当に良かった。

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