第4話

「いいか?餅は餅屋って言うだろ?その分野のことはその道のプロに頼めばいいんだよ。やっぱり無理でした、じゃ遅ぇんだから余計なこと考えんな」



こういう時、話せない自分にどこかホッとしている自分がいる。



「うん…なんか…ごめ」


「やめろ」


言葉を遮ったゲンちゃんに、お姉ちゃんはすぐに話すのをやめてそちらを見た。


「礼は受け取るが謝罪はいらん。俺お前の彼氏だし、これくらいどうってことねぇよ」


「まだ彼氏じゃん…何もそこまで背負うことな」


「じゃあさっさと俺の嫁になれよ。俺もうずっと言ってんじゃねぇかよ、結婚しようって。てか一緒に住んでんだからもう俺旦那みてぇなもんだろ?ニイナと俺だってとっくに家族だし…なぁ、ニイナ?」


その言葉に、私はニコッと笑った。


「ほら、ニイナもそうだって言ってる」


「…ありがとう、ニイナ」


そう言ったお姉ちゃんはやっぱり申し訳なさそうだった。



お姉ちゃんがそんな顔をするのはおかしい。



「じゃあするか?俺と結婚」


「考えとく」


「なんーじゃそら」


肩透かしを食らったゲンちゃんは多少不満げな顔をしてはいたものの、まるでその答えが分かっていたかのように平然とした様子でまた味噌汁を啜っていた。


「てかカナミ、お前また病院まで電車で行くのかよ」


「もちろん」


「タクシー使えっていつも言ってんじゃねぇかよ」


「雨降ってる時は使ってるよ?こんな晴れた日はお金もったいないよ~。時間はかかるけど電車で行けないわけじゃないし。それだってリハビリの効果あるんだからね?」


「リハビリしながらリハビリに通うのか…」


独り言のようにそう言って何かを考え込むゲンちゃんに、隣で私も同じようにそれについて考え込んだ。


お姉ちゃんのリハビリってどんなことをするんだろう…



「ゲンちゃんいつもタクシー代込みで多めに渡してくれてるでしょ?使わなかった時はその分返そうか?」


「いや、いいよ。残りはあれに入れるんだろ?」


そう言ってゲンちゃんが指差したのは、この居間の隅に置いてある無数の小銭とお札の入った大きな酒瓶だった。


「うん!あれがいっぱいになったら三人で旅行にでも行こうよ!」


「実質俺の金ならもう普通に俺が出して行けばよくね?」


「ったく分かってないなぁ、ゲンちゃんは」


「あんだよ~」


「頑張ったっていう達成感があるからこそご褒美はご褒美になるんだよ?はぁ~、本当にやれやれだよ」


お姉ちゃんはそう言いながら、ゲンちゃんのために入れたコーヒーの入ったマグカップを両手で持ち上げそれを飲んだ。


「ん、おいしっ」


「それ俺のコーヒーだぞ?」


「私が入れたんだもん」


「はぁ~?ニイナ、お前の姉ちゃん最近俺に厳しくね?」


「そんなことないよねぇ、ニイナ?」


そんないつも通り仲睦まじい二人に、私はニコッと笑ってみせた。


そうすれば二人も釣られるように笑った。



お姉ちゃんとゲンちゃんは高校生の時から付き合っていて、今年で五年になるらしい。


足の悪いお姉ちゃんにはできないことが多くて、だからゲンちゃんは当時からずっと寄り添ってくれている。


そんな中唯一の肉親であったお父さんが死んで、それを機に私達が生まれ育ったこの家でゲンちゃんを迎え三人で暮らすようになった。


それももう三年になるから、たしかに二人はほぼほぼ夫婦のようなもの。

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