第3話
「“いつも同じ飴買いますよね”とか言って。やべぇだろ?」
「ヤバい!てか怖い!」
「しかもそれを誇らしげに喋ってんのが死ぬほどキモくて」
「その店の店長には!?言った!?」
「俺もそうしようとしたんだけどニイナがいいって」
「なんで!?」
突然私へと話を振られ危うく米を喉に詰めそうになった私は、なんとかしっかりそれを飲み込むとまた箸を置いてホワイトボードとペンを手に取った。
『これといった何かをされたわけじゃないから』
それを見せれば、お姉ちゃんは少し目を見開いた。
「されてからじゃ遅いじゃん!」
「俺もそう言ったよ…」
どこか呆れたようにそう言ったゲンちゃんは、味噌汁をズズッと啜りお椀の中に入っていた卵の半分を箸で口に入れた。
その黄身はやっぱり固めのようだった。
「ていうかもうされたも同然じゃない!?」
「それも言ったって。けど絶対やめてねって聞かねんだからしょうがねぇだろ」
「えぇ~っ!何でよ、ニイナぁ~!」
納得がいかないとばかりに不満げな声を上げるお姉ちゃんを気にすることなく、私はすでにまた朝食を食べるのを再開していた。
「だからニイナ、マジでもう行くなよ?」
少しこちらに顔を近付けそう言ったゲンちゃんに笑顔を向ければ、念押しのように「分かりましたかー?」と確認をされた。
私はそれに素直に頷いた。
「ん、分かればよし」
「…はぁ…ゲンちゃん、それならもうニイナの迎えの場所を変えるってことだよね?」
「当たり前だろ?これからは学校の前まで行くよ」
ゲンちゃんはそう言ったけれど、それでもお姉ちゃんはまだ心配そうな顔をしていた。
「そういやカナミ、今日病院の日だよな?」
「あ、うんっ」
お姉ちゃんのその返事に、一旦箸を置いたゲンちゃんはポケットから財布を取り出すとそこから数枚のお札を抜きお姉ちゃんに差し出した。
「…いつもありがとう…」
「おう」
お姉ちゃんの表情に目で見て分かるような変化は見られなかったように思うけれど、それはしっかり“心配”から“申し訳ない”へと移り変わっていた。
「毎月毎月…別に治るわけじゃないから通う意味なんてないのにね?」
ゲンちゃんから受け取ったお札を見つめながら、お姉ちゃんは左手で自身の左足首を擦っていた。
「けどリハビリしなきゃ軟骨がすり減って足首が変形すんだろ?」
「…うん…」
「なら必要じゃん。変形したら今より歩きにくくなるぞ?」
「思ったんだけどさ、もう十年近く通ってるし自分でできなくもないんじゃないかな?」
「リハビリ?」
「そう。いつもやることは同じだし」
「アホか」
ゲンちゃんのそれは間髪入れず即答だった。
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