第2話

「おはようって言ってんだけど?」


ゲンちゃんのそれに、私は手に持っていた味噌汁の椀と箸を一旦置くとすぐそばにあったホワイトボードと専用のペンに手を伸ばした。


『おはよう!』


さらさらとペンを滑らせて書いたそれを笑顔とともにそちらに向ければ、ゲンちゃんは満足したように「ん」と言った。


「あれ?てかニイナ、今日も制服?」


さっき書いた文字をペン付属のイレーザーで消していれば続けてゲンちゃんにそう聞かれ、私は真っ白になったホワイトボードに今度は『登校日』と書いてそれを見せた。


「昨日もだったのに?」


『昨日と今日』


「マジ?登校日って二日もあんの?」


驚くゲンちゃんに私が笑顔で頷けば、「ゲンちゃんってば、去年だって二日あったじゃん」とお姉ちゃんの声が聞こえた。


「あ、そうだったっけ?マジか、大変だなぁ。てかそもそもせっかくの夏休みに登校日なんか作んなよ~、なぁ?」


同意を求めたゲンちゃんに、私は再び笑顔を向けた。


「手ぇ止めさせて悪かったな。ほら、しっかり朝飯食っとけ」


ゲンちゃんの優しいその言葉に、私は持っていたホワイトボードをしっかり真っ白にしてからそれを真横に置いて再び箸を手に取った。



お姉ちゃんの作る味噌汁は少し甘くてとても美味しい。


あと豆腐やわかめと一緒に入っている卵は、黄身が固すぎず半熟すぎずでちょうどいい。


おそらくそれは狙ってそうされていて、だからゲンちゃんのはきっと好みに合わせて固めだろう。



「あ、そうだ、ニイナ。お前あのコンビニにはもう行っちゃダメだぞ?」


ゲンちゃんがそう言ったタイミングで、台所からスッ、スッと左足を引きずる音とともにお姉ちゃんが「コンビニ?」と言いながらこちらにやってきた。


それに気付いたゲンちゃんは、「おう」と言いながらすぐに立ち上がるとお姉ちゃんが両手に持っていた椀とマグカップを受け取った。


「コンビニってどこのコンビニ?」


そう聞きながら、お姉ちゃんは私の左隣に戻ってきたゲンちゃんのそのまた左隣に腰を下ろした。


「いつもニイナが俺の迎えを待つ、あの通ってる高校のすぐ近くの」


「何で行っちゃダメなの?」


「俺が昨日迎えに行ったら店員の男がいきなりニイナに“ニイナちゃん”って声掛けてきて、」


ゲンちゃんがそこまで言うと、お姉ちゃんは私へと視線をズラして「お友達?」と聞いた。


それに私が首を振るのとゲンちゃんが「それがちげぇんだよ」と言うタイミングはほぼ同じだった。


「前にニイナがそいつのレジで買いもんして、鞄から財布を出した時に中に入ってたノートが見えたんだと」


「ノートって…その表紙に書いてる名前ってこと?」


「そう。しかも“これ見てください!”とか言ってポケットから出したのが大量のレシートで」


「え?」


「それ全部、ニイナがこれまでに買いもんして店に捨てて帰ったレシートだと」


「…えっ!」


二人の会話を聞きながら、私は出されていた卵焼きを箸で少し切り離しそれを口に入れた。


ん、美味しい…

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