第6話 意外と天然?

「…………あれ?」



 目を覚ました私の視界に映るは地獄――ではなく、ましてや天国でもなく……ここ数ヶ月にて、甚く馴染みとなった白い天井で。……まあ、ある意味天国とも言えそうだけど……でも、どうして――



「――起きたか、ソフィ」

「…………エリス」


 そんな朧な思考の中、ふと柔らかな声が届く。……うん、どうしても何もないか。倒れてた私を、エリスが見つけ助けてくれた――それ以外、なんの結論があるのだろう。



 それから少しして、エリスの淹れてくれたコーヒーを嗜む私。……うん、暖かい。


「……あと、これ……その辺に落ちてたんだが、あんたのだろ?」

「……へっ?」


 すると、不意にそう言って差し出すエリス。その手には、唖然とするほどの大量の紙幣が。確かに、あの時の私はこれ以上の紙幣を所持していた。なので、あの掏摸犯がその大半を落としたと仮定すれば、一応話は成立する。


 ……だけど、流石にそれは無理がある。いったい何があったら、そんな都合の良い展開になるのかという話だし……何より、だとしたら紙幣これはあまりに綺麗すぎる。流石に、あの短時間で犯人を捕まえ取り返したなんて話だと現実味がなさ過ぎるから避けたのだろうけど……これだって、ごまかすには到底無理がある。……実は、意外と天然?


 ……まあ、でもそれならそれで良い。遠慮なく、私のものとさせてもらおう。そして――



「……ありがと、エリス。それで、ものは相談なんだけど――このお金で、貴方を買いたいの」


「…………は?」


 唐突かつ突飛な私の発言に、ポカンと口を開き声を洩らすエリス。まあ、それはそうだろう。だけど――



「――ねえ、エリス。貴方は、時々夜遅くに部屋いえを出たり、数時間ほど私に部屋から出ているよう頼んだりするけど――その時間とき、何してるの?」

「……それは」


 尚も唐突な私の問いに、少し顔を背け呟くエリス。まあ、それはそうだろう。だって――



「……他の女の、臭いがするの。とくに、敷物や毛布から――それも、きっと一人や二人じゃない」

「…………」


 そう告げると、苦しげに口を真っ直ぐ結ぶエリス。そんな彼に、続けて言葉を紡ぐ。



「……貴方は、私と同じなんだよね?」


「…………」


 そんな私の言葉に、尚も口を真一文字に結ぶエリス。そう、彼は私と同じ――自身の身体を売ることで、生計を立てていた。


 そう思えば、いろいろ腑に落ちる。あからさまなほど部屋に不釣り合いな豪華な装飾も、私に対する不可解な彼の行動も。



「……辛かったんだよね、貴方も。だから――同じ痛みを抱える私に、精神こころの繋がりを求めたんだよね」


 


 




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