第4話 直観

「……あの、エリス。やっぱり、これ――」

「いや、別に良いって。それより、飯にしようぜ。今日は――」



 それから、二週間ほど経て。

 少し肌寒くも穏やかな朝、そう言って差し出す私を留めつつ答えるエリス。そんな私の手には数多の紙幣――例によって、昨夜前払いで渡してくれた代金が。


 そして、例によって彼は私に指一歩触れず、次第に眠りへと落ち――出会ってから二週間、その間も何度か彼からがあったのだけど、いつもこのパターン……つまりは、報酬だけをもらった上で私は何もしていないわけで。せめて、服を脱ぐくらいすべきだったか……いや、別に相手から求められてもいないのにそれもおかしいか。



 …………求められてもいない、か。



 「――じゃあ、行ってくるわソフィ。……あと、悪かったな。今日も――」

「うん、いってらしゃいエリス。それと、分かってるから気にしないで」

「……ああ、悪いな」


 その日の、夜の帳が下りた頃。 

 そう、言葉通り申し訳なさそうに謝意を告げ部屋を出るエリス。日にもよるけど、このくらいの時間に出て行くことが多くて。


 ところで、今しがたの彼の謝罪は夕方頃の数時間――彼の頼みで、私が部屋を出ていた数時間についてのことで。時折、数時間ほど部屋を出ていてほしいとお願いされることがあって。


 だけど、別に謝ることじゃない。彼にも何らかの事情があるだろうし……そもそも、何の義務もないのに私を置いてくれて、食事とかも用意してくれて……感謝こそすれ、不服を言う義理など何処にもなくて。


 ……ただ、それはそれとして――


「……早く、帰ってこないかなぁ」


 ふかふかの毛布に顔を埋め、一人そんな言葉ことを口にする。……いや、早くも何も、ついさっき出ていったとこなんだけど。……だけど、それでも――


「…………ん?」


 ふと、思考が止まる。……いや、初めてじゃない。以前から――それこそ、初めて此処に来た日から、ぼんやりとは感じていて――


 ……だけど、何か違う。……いや、それ自体はたぶんそこまで変わってない。変わってないんだけども……ただ、私自身の感覚が大きく違う。たぶん、以前はそうでもなかったのに……どうしてか、今はこの上もなく不快で――



「――――っ!?」



 卒然、脳に稲妻が走る。……いや、まさかそんなことは――


 ……でも、そう考えればいろいろ辻褄が合うし――それ以上に、間違いないと告げている。この直観が、まず間違いないと……だとしたら、私のすべきことは――


 





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