第2話 困惑

「……ここ、なの……?」

「……不満か?」

「ああううん、むしろ逆! その……こんな綺麗な所、初めてで……」

「……別に、綺麗そうでもねえよ」



 それから、およそ30分後。

 共に到着した先は、少し古びた木製アパートの二階奥に在する一室――もう十年以上住んでいるらしい、エリスの部屋で。



『――ああ。……だが、その前に移動しないか? つっても、別に大した場所でもねえけど……たぶん、此処よりはましだろ』


 そういうことですよね――30分ほど前、船の上にてそう問うた私に、少し顔を背け答えるエリス。そして、繰り返しになるけど到着した先が彼の部屋で。


 ところで……道中、そこそこ気まずくなるかと思ったけど――存外、そうでもなく。私も――そして、恐らく彼も、お世辞にもコミュ力に長けてるとは言えないだろうけど……それでも、不思議と会話は心地良かった。


 そして、その会話なかで最も驚いたのが――彼は、もう30手前だということ。つまりは、私より一回り以上も歳上で……うん、全然見えないや。……まあ、それはともあれ――


「……それじゃ、さっそく――」

「――その前に、腹減ってね?」

「…………へっ?」



「……あの、エリス。これは、その……」

「……悪いな、大した食事もんは出せな――」

「いやそうじゃなくて! そうじゃなくて……その……ただ、申し訳ないなって。エリスは、お客さんだし……そうでなくても……その……」

「……ああ、そんなことか。別に気にすんなよ。客側こっちが勝手に出す分には自由だろ?」

「……まあ、そう言われれば」


 それから、数分経て。

 そんなやり取りを交わしつつ、円卓にて向かい合う私達。そんな二人の前には色の良い羊肉、ほんのり湯気の漂うスープ、イチジク、黒パン、そして芳醇な香り漂う飲み物が。控えめに言っても、私にとっては十分に大した食事もので――


 ……でも……なんで? なんで、そこまでしてくれるの? 私なんかのために、どうして――



「……ご馳走さまでした。その……ほんとに美味しかった」

「……そっか、それなら良かった」


 それから、十数分経て。

 そう伝えると、仄かに微笑を浮かべ答えるエリス。もちろん、お世辞でなく本当に――本心から、美味しかったと思っている。でも、それはきっと食事そのものだけが理由ではなく――


 それから、暫し経過――とうとう、その時間がやって来て……うん、ここまでしてもらったんだ。せめて、返せるものは……最低限、お代以上のものはお返ししないと。そんな決意を固め、二人ゆっくりと毛布を纏い――



「………………あれ?」







 



 


 


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