灯火
暦海
第1話 唯一の術
「……ありがとう、ございました」
軽く頭を下げそう告げるも、こちらを振り向くこともなく去っていく恰幅の良い男性。そんな彼の
さて、そんな私がいるのは閑散とした波止場にポツリと浮かぶ廃れた船の一室。そんな
――最初は、13の歳だった。元々、お世辞にも裕福とは言えない生活の中、父が他界――最愛の夫と経済的支柱を失った母も、ほどなく精神が崩壊し帰らぬ人に。その後、身寄りのない私は独り宛もなく彷徨う日々。それから、およそ三年の歳月が経過して――
その間、何人もの
「……今日も、誰も来ないか」
朧な月が仄かに照らす寒空の下、独り呟きを洩らす。そんな私がいるのは、例の廃れた船の上――ここでお客さんを待ち構え、あの廃れた船室へと移動し事に及ぶという流れで。
ただ……あれからおよそ二週間、お客さんどころかほとんど人の通る気配もなく。まあ、こういう仕事であるからして、あまり人通りの多い所は選びたくないので致し方な……いや、そもそも仕事と呼んで良いのかも定かでないけど。
……思えば、いつからだろう。身体を売ることに――顔も名前も知らない
――いや……このままだと、そのこれからがあるかどうかも定かでないか。さしあたり、どうにか生きていける程度のお金はある。……それでも、この状態が続けばいつかは――
「……いや、別に良いんじゃない?」
黙考の
「――なあ、ちょっと良いか?」
「…………へっ?」
卒然、凛とした低い声が届きハッと顔を上げる。すると、そこにいたのは端整な顔立ちの男性。恐らく、歳のほど20前後……それでいて、何処か
「――俺はエリス、あんたは?」
「……へっ? あ、えっと……私はソフィ、です……」
すると、不意に届いた問いに呆然とする私。いや、本来なら何ら驚く
……いや、それはともあれ――
「……えっと、エリスさん。こうして、私に話し掛けてるってことは……その、そういうことですよね?」
そう、期待を込め尋ねてみる。……うん、我ながらほんと呆れ果てる。ついさっき死んでも良いなんて言いながら、希望が見えた途端これなんだか――
「――ああ。……だが、その前に――」
「…………へっ?」
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