とどまるところを知らない

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「よう、漫画は?」

 佐藤が雄大に声をかける。

「SNSのトレンドになるのも飽きた……」

「い、一度は言ってみてえな……」

 佐藤が苦笑する。

「う~ん……!」

 雄大が髪の毛をかきむしる。佐藤が驚く。

「どうした?」

「ままならないな……」

「なにがだ?」

「……知りたいか?」

「知りてえよ」

「そうか……ならば週末、ここに来てくれ」

 雄大がスマホの画面を佐藤に見せる。

「これは?」

 佐藤が首を傾げる。雄大が席を立つ。

「今日は早退する」

「あ、ああ……」

 雄大が教室を出ていく。週末、佐藤は鈴木とともに千駄ヶ谷の体育館の客席に座っていた。スーツを着た男性がマイクを通じて声を上げる。

「年に一度のロボットの祭典! 『ロボットチャンピオンシップ』の開幕を宣言します!」

「ロボコンかよ!」

「正確にはロボチャン……」

 鈴木が訂正する。

「違うのか?」

「ロボチャンはロボットさえあれば誰でも参加出来るわ。学生や主婦、フリーターから反社会的勢力までね……」

「反社⁉ マ、マジ?」

「冗談よ」

 鈴木が笑う。

「お、驚かすな……」

「幅広く門戸を開いているのは確かよ」

「……雄大は最近、ずっと早退していたが」

「綺麗も同じ」

「っていうことは……二人で出るってことか?」

「……そうね」

 鈴木がアリーナの方を指差す。二体の3メートル位の大きさのロボットにそれぞれ搭乗した、綺麗と雄大の姿があった。佐藤が面食らう。

「ロ、ロボットって搭乗型⁉」

「ロボチャンは基本、搭乗型ロボットでの参加よ。大体みんな、二足歩行型ね」

「アニメが現実に……知らん内に日本始まっていた……」

 佐藤が驚きながら呟く。

「さて、では早速、競技の方に移らせていただきます!」

「競技?」

「細かい変更は毎年あるけど……大体、スピードとパワーとテクニックを競う感じね」

 佐藤の問いに鈴木が答える。

「では第一種目、『トライアスロン対決』です!」

 司会が告げる。

「ど、どうなるんだ……?」

「おおっと! 水泳エリアで、ショートを起こし、リタイアするロボットが続出だ! これはどういうことだ⁉」

「いや、予想出来るだろう! 精密機械は濡らしたら駄目だって!」

 司会の言葉に佐藤が思わずツッコミを入れる。

「さあ、自転車エリア! ああっと! 自転車に上手く跨れないロボットが続出だ! これはなんということだ!」

「そりゃあそうなるだろう! 機体がデカいんだから!」

 佐藤が再びツッコミを入れる。

「さあ、最後のランニングエリア! あっと! 天ノ川綺麗選手搭乗の機体、『ビューティフル』が凄いスピード! トップ独走!」

「は、速え⁉」

「スピードに力を入れていたみたいだからね」

 仰天する佐藤の隣で鈴木が冷静に呟く。

「ビューティフル、トップでゴール! トライアスロン対決は天ノ川学院チームの天ノ川綺麗選手が制しました!」

「やったぞ!」

「ええ!」

 佐藤と鈴木がハイタッチをかわす。

「では第二種目、『綱引き対決』です!」

 司会が告げる。

「おお、純粋な力比べだな!」

 佐藤が前のめりになって見つめる。

「優勝候補の大本命が敗退!」

「……!」

「優勝候補の最有力が敗退!」

「……!!」

「優勝候補の最右翼が敗退!」

「……⁉」

「優勝候補の一押しが敗退!」

「優勝候補多いな!」

 佐藤が思わず声を上げる。

「勝ち残ったのは、天ノ川雄大選手搭乗の『マジェスティック』! 天ノ川学院チーム、これで2連勝です!」

「うおおっ!」

「やったわね!」

「ああ!」

 佐藤と鈴木が再びハイタッチをかわす。

「では第三種目、『テクニカル対決』です!」

「テクニカル?」

 司会の言葉に佐藤が首を傾げる。鈴木が呟く。

「テクニックを競うんでしょう」

「それは分かるが……」

「さあ、ロボットのレフトハンドで箸を使って米粒を掴み、ライトハンドで毛筆を使って、米粒に般若心経を書き込むことが出来るか⁉」

「テクニカルにも程があるだろう⁉」

「そこまでの緻密さを求められるなんて大変ね、ロボットも……」

 佐藤が声を上げる横で、鈴木が苦笑する。

「おっと⁉ 天ノ川綺麗選手搭乗のビューティフル! 漢文だけでなく、日本語訳まで書き込んでいる! これは綿密だ!」

「なっ……」

 鈴木が言葉を失う。

「あっと⁉ 天ノ川雄大選手搭乗のマジェスティック! 両足も両手と同じ動きをしている! これは精密だ!」

「マジか……」

 佐藤も言葉を失う。

「緻密・綿密・精密! これこそが『シン・三密』だあ!」

 司会が興奮気味に叫ぶ。鈴木が首を傾げる。

「言葉の意味はよく分からないけど……」

「ああ、このまま行けば二人の優勝はほぼ確実だ!」

 佐藤が頷く。

「ああー! こんなもんやってられるか!」

「!」

 真っ黒い機体が米粒をぶちまける。

「素直に奪い取る!」

「なにっ⁉」

「あっと! 南関東ギャングチームのワル選手搭乗の『ハンシャ』が暴れ出した! この大会の高額賞金目当ての反社会的勢力だったか⁉ これはまったく予想だにしない展開だ!」

「十分予想出来ただろうが! 見落とし過ぎだ、運営!」

 佐藤が叫ぶ。

「おい! 大会運営! 賞金を寄越せ! さもないと……」

「‼」

 ハンシャがどこからかロケットランチャーを取り出し、観客席に銃口を向ける。

「……客が犠牲になるぞ?」

「……!」

 周囲に緊張が走る。

「お待ちなさい!」

「あん?」

「悪は許さん……!」

「ああん?」

 綺麗のビューティフルと雄大のマジェスティックが並んでハンシャの前に立ちはだかる。

「……綺麗!」

「……雄大!」

 鈴木と佐藤が声を上げる。

「……ぷっ、くっくっく……あーはっはっは!」

 ハンシャに搭乗するワルというスキンヘッドの男が大笑いする。綺麗が尋ねる。

「……なにがおかしいのですか?」

「そりゃあそうだろう! そんな小さい機体でこのハンシャに挑むつもりか⁉」

 ハンシャの機体サイズはビューティフルやマジェスティックよりも一回りは大きい。

「ふふ……」

 綺麗が笑う。ワルが眉をひそめる。

「……あん?」

「……サイズの差は補えばよろしいだけですわ」

「馬鹿言うな! どうやって……」

「こうするのですわ! 雄大!」

「ああ! 姉さん!」

「ジョイントシークエンス、アクション!」

「⁉」

 眩い光に包まれたと思うと、ビューティフルとマジェスティックが合わさり、一つの機体となっていた。機体サイズはハンシャよりも大きい。

「ビューティフルマジェスティック、見参!」

「が、合体……⁉」

「うおお、かっけえ!」

 驚嘆する鈴木の隣で佐藤が興奮する。

「ちいっ!」

「遅いですわ!」

「くっ!?」

 ハンシャがロケットランチャーをビューティフルマジェスティックに向けようとするが、ビューティフルマジェスティックは相手の懐に一瞬で入り、右腕を抑え込む。雄大が声を上げる。

「スピードだけじゃなく……パワーも2倍だ!」

「ぐっ⁉」

 ビューティフルマジェスティックが相手の右腕を握り潰す。ロケットランチャーが床に転がる。雄大が呟く。

「これ以上の抵抗は無駄だ……」

「舐めるな、ガキが!」

 ハンシャが残った左腕で殴りかかろうとする。綺麗が声を上げる。

「分からず屋さんにはお仕置きですわ!」

「⁉」

 ビューティフルマジェスティックが強烈なパンチを放つ。それを食らったハンシャの機体の上半分が下半分から千切れ、壁に向かって吹っ飛び、壁にめり込む。衝撃で気を失ったワルは操縦席から転げ落ち、身柄を拘束される。

「ふ、二人でテロリストを制圧しちゃったわよ……ははっ、笑っちゃうわよね……」

 鈴木が佐藤に声をかける。

「ようやくだが、分かったことがある……」

「何?」

「もう全部あいつら二人でいいんじゃないかな……」

「確かに……」

 佐藤と鈴木が揃って両手を挙げて参ったというポーズを取る。

「さて……次はなにをしようか、姉さん?」

 ビューティフルマジェスティックの搭乗席で雄大が綺麗に問いかける。

「う~ん、やってみたいことが多すぎて……」

「俺も同じだよ、夢があまりに多すぎて……」

「「とどまるところを知らない!」」

 姉弟は揃って同じセリフを口にする。

「! ふふっ!」

「! ははっ!」

 姉弟は互いに顔を見合わせて笑う。

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天ノ川綺麗と天ノ川雄大の姉弟はとどまるところを知らない! 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji

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