漫画やら動画やら

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「ふう……」

 綺麗が教室でため息をつく。

「綺麗」

 鈴木が声をかけ、前の席に座る。

「花子……」

「今度は何の部活に入るの?」

「う~ん……しばらく運動部は良いかなと思ってまして……ふあ……」

 綺麗が小さく欠伸をする。

「眠そうね」

「失礼……最近寝不足でして……」

「珍しいわね、勉強でもしてたの?」

「高校の学習範囲は既に終わらせております」

「……じゃあ何? 単なる夜更かし?」

「漫画にハマっておりまして……」

「本当に夜更かしじゃない」

「いや、それが面白くて……つい時間を忘れて……」

「読んでしまうと……」

「描いてしまうのです」

「⁉ あ、か、描くの⁉」

「ええ、初めは一読者でしたが、わたくしのクリエイティビティが刺激されてきて……」

 綺麗が胸にそっと右手を添える。

「へ、へえ……」

「そうだ、良かったら読んで頂けませんか?」

 綺麗がタブレットを机の上に出す。

「拝見させてもらおうかしら……」

「これです」

 画面にリアルなタッチの犬と猫、そしてウサギの絵が表示される。

「あら、上手ね!」

 鈴木が素直に感心する。

「ありがとうございます」

「人の言葉で話している?」

「動物同士でしか伝わらない会話です。飼い主についてのお話などで盛り上がっています」

「あ~ペット同士なのね……」

 鈴木がタブレットの画面をスクロールさせていく。

「どうでしょうか?」

 綺麗が尋ねる。

「……面白いと思うわ。でも……」

「でも?」

「会話内容が比較的コミカルなのに、犬たちの絵のタッチがリアル過ぎない? 画力の高さは伝わるし、これはこれでギャップは生まれると思うけど、どっちかに寄せた方が良いんじゃないかしら……犬たちを可愛らしくディフォルメさせるとか……」

「ディフォルメですか……こういうキャラもいますが……」

 リアルな犬たちに囲まれた二頭身の眼鏡をかけた頭がバーコードのように禿げている中年男性の絵を表示させる。

「! こ、これは……?」

「飼い主の川村さんです」

「そっちをディフォルメしちゃった⁉」

「はい、タイトルは『とにかく愛くるしい川村さん』です」

「主役川村さん⁉」

「長いので、『とにかわ』と略そうかと……ギャップはあると思うのですが」

「ま、まあ、良いんじゃない」

「そうですか!」

 綺麗の顔が輝く。

「う、うん……」

「実はもう一作、描いています。こちらなのですが……」

 綺麗は丘の上で体育座りをしている可愛らしい少年の絵を表示させる。

「こ、これは……?」

「『おかの子』です」

「お、おかの子⁉」

「視力が良いのです」

「ああ、丘の上から遠くまで見渡せるのね?」

「人の内面も見透かせます」

「視力が良いってそういうこと⁉」

「その視力を活かし、丘の下でくり広げられる様々な人間模様をシニカルに眺めます。そしてアイロニーな一言を放ちます」

「可愛らしい絵からのまさかの社会派寄り!」

「ギャップがあるかと……」

 綺麗が小首を傾げながら呟く。

「ま、まあ、ちょっとスパイスを効かせた方が刺激的かもね……良いんじゃない」

「そうですか」

 綺麗が笑みを浮かべる。

「しかし、二作も書いていたら、寝不足にもなるわね」

「……実はもう一作あるのです」

「えっ⁉」

「こちらです」

 綺麗がタブレットを操作すると、4つのコマが表示される。

「4コマ漫画?」

「ええ、1ページ漫画やショート漫画だけでなく、そちらにも挑戦しました」

「旺盛な創作意欲ね……」

 鈴木が感心したように頷く。

「ああ、4コマを見る前に表紙も描いたので、そちらをご覧ください」

「⁉」

 綺麗が表示させたのは可愛らしい絵柄の女子高生3人がソンブレロというメキシコ伝統の大きな帽子を被り、ギターやバイオリンなどを持って笑顔で立っている絵だった。

「タイトルは『とりお・で・まりあっち!!!』です」

「よ、陽気!」

「楽しそうな方が良いかと……」

「そ、それはね……でも、何故に女子高生がメキシカン?」

「女子高生にニッチな趣味をさせるのが漫画アニメのひとつのジャンルだという話を目にしましたので」

「それにしてもニッチ過ぎるような……でも、肝心の女の子が可愛らしく描けているから、これはこれでアリかも……」

「どうでしょう?」

「うん、良いんじゃない?」

「では、早速EXにアップしてみましょう!」

「まあ、それなりにはウケるかしらね……」

 タブレットを嬉々として操作する綺麗の横顔を鈴木が笑顔で見つめる。その数日後……。

「おい! 綺麗ちゃんの漫画、超バズっているぞ!」

 佐藤が雄大に話しかける。雄大が頷く。

「ああ……」

「水を開けられちまったな~」

「ポストをよく見ろ……」

「え? ……あっ⁉」

 スマホを確認した佐藤が驚く。

「俺も作画協力している」

「そ、そうだったのか……」

「話も一部考えている」

「原案協力にも名前が……」

「俺たち姉弟の共作だ」

「はあ……見事だな」

「……これで終わりではない」

「え?」

「どうなるか見ていろ……」

「あ、ああ……」

「ふふっ……」

 その数日後、三作品をアニメーション化した動画がYouBroadで公開されて大いに話題となった。

「このアニメ⁉」

「最近は便利だな、個人でも高クオリティーのアニメを制作することが出来るのだから」

「まさか、これも……?」

「ああ、共作だ」

 佐藤の問いに雄大が頷く。

「マ、マジかよ……しかし、こんな仕掛けを用意していたとはな……」

「まだだ」

 雄大は首を振る。佐藤が首を傾げる。

「へ?」

「二の矢、三の矢を用意してある。見ていろ……」

 その数日後、アニメにオープニング主題歌を付けた動画がアップされる。独特な言葉遊びがふんだんに盛り込まれた歌詞に聞き馴染の良いメロディーが合わさった曲もまた話題を呼んだ。さらに、綺麗と雄大が『歌ってみた』動画もアップされた。製作者本人が自ら歌うということだけでなく、その高い歌唱力とルックスの良さも大いに注目を集めた。

 さらに、キャラが可愛らしく踊る動画もアップされた。これも綺麗と雄大本人が『踊ってみた』動画をアップ。真面目な顔つきでちょっと力の抜けた、それでいて決めるところは決めるダンスはこれまた話題を呼び、TikTakなどでは、綺麗たちと同世代の若者たちがこのダンスを真似することが世界中で流行、一大トレンドとなった。

「たった十日間で世界中に『天ノ川姉弟ブーム』を巻き起こしてしまったわね……」

 廊下でスマホを眺めながら、鈴木が呟く。その隣に立つ佐藤が尋ねる。

「まさか……作詞作曲も?」

「ええ、編曲はアメリカの大物アーティストにお願いしたみたいだけど」

「……ダンスは?」

「韓国からKポップ界の人気振付師を招聘したそうよ」

「そ、そこまでやるか……」

 佐藤が両手を挙げて参ったというポーズを取る。

「そこまでやるのがあの二人よ……」

 鈴木が笑みを浮かべつつインスタグラフに新たに上がった綺麗と雄大の動画にいいねを押すのであった。

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