eスポーツに挑む
1
「ちょ、ちょっと待て、雄大!」
佐藤が天ノ川姉弟の弟、雄大を呼び止める。雄大は振り返る。
「……なんだ?」
「なんだ? じゃねえよ! 卓球部を辞めるってどういうこった⁉ 仮入部期間も終わってねえのに!」
「卓球は一区切りだ」
「い、いくらなんでも早すぎる!」
「見ただろう?」
「ああ、全国優勝ペアに勝っちまったな、お前と綺麗ちゃん……」
「練習試合だが、俺と姉さんが実質日本一でいいだろう。相手は終盤は本気モードだったしな」
「一体どうやったんだ?」
「箱根にうちのグループ所有の温泉宿があるだろう」
「ああ、俺と鈴木も行ったことがあるな」
「あそこに世界一のペアを中国から招き、春休みの一週間、特訓した」
「! そ、そんなことを⁉」
「日本一に勝つなら世界一だ」
「……温泉卓球で日本一になったのか⁉ おいおい……」
「ふっ……」
「これからどうする?」
「……別の部活に目を付けている……」
「なんだ?」
「興味あるのか?」
「そりゃあな」
「そうか……では三日後、この会場まで来い……」
雄大がスマホを佐藤に見せる。画面を見た佐藤が目を丸くする。
「これは……幕張?」
「準備があるから帰るぞ」
「あ、ああ……」
三日後、幕張の会場に佐藤と鈴木が赴く。煌びやかなステージの壇上でスーツ姿の男性がマイクを通じて声高らかに叫ぶ。
「日本有数のゲームの祭典、『eーフェスティバル』にようこそ!」
「eスポーツ!」
佐藤が声を上げる。
「なるほどね」
鈴木が頷く。
「なにがなるほどなんだ?」
「eスポーツは高校生でも日本一になれる可能性のある競技だわ」
「! 雄大と綺麗ちゃん、優勝を狙ってんのか!?」
「そりゃあ、狙うでしょう……」
「そ、そんなに上手くいくか……?」
「私たちは見守るだけ……」
大会が進む。司会の男性が声を上げる。
「さあ、続いては『ゾンビの鉄人』部門だ!」
「うおおっ!」
観客席から歓声が上がる。
「聞いたことのないゲームだが、盛り上がってんな……」
「見て!」
鈴木がステージ上を指差す。綺麗と雄大が登壇する。
「それでは、全国のゲームセンターでの予選を勝ち抜いた、二組による対戦だ!」
「対戦型ゲームか?」
司会の言葉に佐藤が首を傾げる。
「知らないの?」
「知らねえ……太鼓型の筐体が置いてあるから、リズムゲームかと……」
「太鼓を叩いて生じた衝撃波で迫りくるゾンビを倒すゲームよ」
「銃を撃つのじゃ駄目なのかよ、太鼓要るか?」
「始まったわ」
綺麗と雄大は見事なプレーを見せる。観客たちが感嘆とする。
「やるな、あの高校生ペア!」
「ああ、このゲーム、ゾンビのグラフィックが異様にグロくて、直視に堪えないんだよな……」
「あのペア……目を閉じてプレーしていやがる!」
「あれなら画面を見なくて済むな……でも、後半のステージってゾンビの出現順が完全にランダムじゃなかったか?」
「……耳だ! 耳で音を聴いて、ゾンビの位置を把握している!」
「か、神プレーだ……!」
ゾンビの鉄人部門は綺麗と雄大ペアが抜きん出たプレーで優勝した。
「続いては、『ノムさんの野望』部門!」
「うおおおっ!」
観客席から大歓声が上がる。佐藤が首を傾げる。
「また知らないゲームだ……」
「プロ野球の監督になって、野球史に名を残す名選手たちを集め、強力なチームを作り上げていくゲームよ」
「……シミュレーションゲームか?」
「まあ、見ていなさい」
「打ったー!」
「あのペアの兄ちゃん、良いバッテイング操作だ!」
「投げた! 三振!」
「あのペアの姉ちゃん、絶妙な投球コントロールだ!」
雄大と綺麗のプレーに観客が湧く。鈴木が呟く。
「このゲームは試合での操作の巧拙が鍵を握るのよ」
「名選手を集める意味は⁉ 普通に野球ゲームやれよ!」
佐藤が声を上げる。ノムさんの野望部門も綺麗と雄大ペアが圧倒的な強さで優勝した。
「続いては、『値切りがお得Ⅶ』部門!」
「うおおおおっ!」
観客席から大歓声が上がる。佐藤が首を捻る。
「また知らないゲームだ……」
「値切って買った装備を身に着けて、魔王を倒すゲームよ。どれだけ安上がりな武器や鎧を集められるかが鍵を握るわ」
「……なんでそんなに詳しいんだ?」
佐藤が鈴木に問う。
「大ヒットシリーズよ?」
「そうみたいだな、ナンバリングがⅦだし……しかし、どういうゲームだ? 説明を聞いてもさっぱり……」
「まあ、見ていなさい」
「おおっ、値切ったー!」
「あのペアの兄ちゃん、なんて交渉力だ!」
「また値切ったー!」
「信じられねえ! レア武器をあんな安価で⁉」
「またまた値切ったー!」
「うわあっ! 最強の剣と盾と鎧が揃った!」
「魔王も楽勝じゃねえか?」
「いや、Ⅶの魔王は強いぞ?」
「……!」
「おおっ⁉ ペアの姉ちゃんの魔法が決まったぞ! とどめだ!」
「結局魔法かい! 装備買いそろえた意味は⁉」
佐藤が叫ぶ。値切りがお得Ⅶ部門も綺麗と雄大ペアがぶっちぎりの強さで優勝した。綺麗と雄大ペアは三冠を獲得。大会終了後にもメディアやファンの注目を集めたのは、綺麗と雄大だった。
「たった一晩で『日本eスポーツ界に天ノ川姉弟あり』っていうことを知らしめちゃったわね……」
鈴木が両手を挙げて参ったというポーズを取る。
「へえ……」
佐藤はステージ上で三つのトロフィーを掲げる雄大と綺麗に対し拍手を送る。
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