友人を代表して

みささぎ

同期の桜


 どうも、みなさん。初めましての方は初めまして。それ以外の人はこんにちは。


 先程紹介に預かりました、新郎の天谷 翔大あまたに しょうたさんの友人の、三沢みさわと申します。


 まずは、翔大さん。そして郁恵いくえさん。ご結婚おめでとうございます。

 

 今回は、天谷 翔大さん…………いえ、あえていつも通り、『天谷くん』と呼ばせて頂きます。


 今回、友人代表ということで皆様の前に立って、スピーチをするという大役を任された訳ですが、こういった経験は生まれて初めてで、右も左も分かりません。


 そこで赤っ恥をかかないように、事前にスピーチについてネットで調べると、こういった場では『新郎を持ち上げる事しか言ってはいけない』と、とあるサイトに書いてありました。


 しかし、天谷くんが僕をスピーチ役に指名したという事は、そういったおべっかばかりを求めている訳では無いと勝手に解釈しましたので、自由奔放に、思いついたままを喋らせて頂こうと思います。


 たとえ、激昂した天谷くんに地面に押さえつけられても、このマイクを手放すことは無いでしょう。それだけの覚悟を持ってこの場に立っています。


 ……さて、まず天谷くんを語る上で外せないのは、僕と天谷くんが初めて出会った、警察学校での話です。


 そう。私もかつては天谷くんと同じく、桜の代紋を背負った若き警察官だったのです。今となっては見る影もありませんが、248期生として、同じ釜の飯を食べた仲でした。


 忘れもしません。あれは桜舞い散る4月。僕は故郷を離れ、縁もゆかりも無い土地に降り立ち、警察学校の門をくぐりました。


 そして教官から説明を聞き、これから生活することになる学生寮の、指定された号室へと足を踏み入れます。


 その時、既に部屋に到着していた天谷くんと出会ったのです。


 他にも何人か同期で相部屋の人もいましたが、何と天谷くんと僕は同郷出身同士という事がわかり、意気投合しました。


 天谷くんはとてもユーモアに富み、他人の立場になって考えられる人間性を持ち合わせながらも、時折見せる毒舌は強烈で、僕は人生で初めて出会うタイプの彼に、惹かれていきました。


 …………あ、郁恵さん。そういう意味じゃないので、安心してくださいね。言葉の綾ですからね。


 余りにも人の心を開かせるのが上手い彼の人間性に、私もつい饒舌になり話し込みますが、やがて天谷くんが私より1つ歳上であることが発覚します。


 僕はこれまで体育会系の部活に所属してきたこともあり、歳上の人へは敬語を欠かした事がありませんでした。その時も、天谷くんが歳上と分かり僕は恐縮しましたが、天谷くんは「そんなの気にしなくていいよ。これまで通りいこう。」と言ってくれました。

 ちなみにこの台詞は意訳です。


 そんな事もあり、天谷くんは僕の人生の中で出会った歳上の人の中で、唯一敬語を使わずに話せる人になったのです。それも、天谷くんの海よりも深遠な心の広さがあったからなのでは、と思います。


 そんな彼だからこそ、年上年下関係なく、人が集まってきました。僕もそのひとりだった訳です。


 さて、そんな事がありながらも、日々はまるで特急列車のように過ぎ去っていきます。理不尽な教官からの指導に、規律に縛られた生活。時には深夜の2時に眠い目を擦りながら起こし合い、次の日の準備をしていたこともありました。我ながら、よくやっていたと思います。


 天谷くんは、頭の回転の早い男でした。悪く言えば、悪知恵が働きました。


 教官の見回りの情報を誰よりも早く仕入れ、共有してくれた恩は今でも忘れていません。

 

 他にも彼の神算鬼謀を世に轟かせるエピソードもあるのですが、流石に色々とアウトな内容を含みますので割愛させて頂きます。後は個人的に彼に聞きに行ってください。


 対照的に、僕は真面目っぽく見られはしましたが、いざと言う時になるとフリーズしてしまうポンコツさを持ち合わせていました。そんな時、天谷くんは僕に知恵を授けてくれるという場面がいくつもありました。


 とても感謝していますが、彼は生粋の遅刻魔で、何度も僕が時間に間に合うように部屋に呼びに行っていたので、これでトントンといったところでしょうか。


 そういった風に、僕と天谷くんはお互いに助け合い(?)ながら、1年間という長いようで短い学生期間を過ごしました。


 そういえば、警察学校時代のエピソードでこんなものがありました。


 とある日、僕は教官に呼ばれて、鬼の巣窟と恐れられる教官室に入りました。そして教官とお話していると、こんな事を聞かれたのです。


「なんでお前は、天谷とそんなに仲がいいんだ?」


 どうやら教官は、僕と天谷くんが正反対のタイプのように見えていたようで、そんな二人が意気投合しているのが不思議な様子でした。今思えば、なんとも失礼な話です。


 そこで、僕はこう言いました。


「天谷くんは、ちゃんと『ありがとう』と『ごめん』を言える人間だからです。」と。


 それに対し、教官は「そんなの、当たり前の事だろ」と言いました。


 しかし、しかしですよ。その当たり前のことを出来る人がどれだけいますでしょうか。


 これまで出会った、僕の地元の友達がみんなシャイボーイだったという可能性はありますが、天谷くんは、ちゃんと面と向かってそれらを言います。なんなら言われた当人が、その事を忘れていても言います。


 男同士というものは、『ありがとう』や『ごめん』をあまり面と向かって言いたがらない生物である。と私は内心で論文を発表していましたが、それは天谷くんの出現によって覆されることになりました。罪な男であります。


 そんな彼を、私は尊敬しています。


 親友でありながら、彼のようになりたい。人間として尊敬出来る男を友人に持ったことを、私は誇らしく思います。


『類は友を呼ぶ』と言いますが、そういう意味では、実は僕自身も中々の傑物なのでは?と勘違いしてしまうほどでした。


 そんな天谷くんとは、警察学校を卒業しても縁が続きます。


 なんと、卒業してから入寮した単身寮が天谷くんと同じで、しかも隣部屋だった時には、教官の作為のようなものを感じました。


 そして、それぞれの警察署に配属されてからも、交友は続きます。具体的にいうと、お互いの休みが被れば漫画やフィギュアを買いに行き、近くのお気に入りの定食屋に何度も繰り出し、時には天谷くんの部屋を掃除したりしていました。


 郁恵さん、きちんと彼のことを見てあげて下さいね?気を抜くとすぐに散らかしますからね。


 ……それはそうとして、警察学校を卒業して数年、転機が訪れました。


 僕が警察官を辞めることを決心したのです。


 僕は悩みました。それは仕事のことではなく、辞めることになれば地元に帰ることになるので、天谷くんと離れてしまうということが1番大きかったです。


 この事は、誰よりも先に天谷くんに相談しました。


 何があるにしても、僕はまず天谷くんに相談するのが常でしたし、その逆も然りだったからです。


 夜更けまで続く話し合い。その末に彼は、度量の深い人間でありますので、最後には僕の決断を尊重してくれました。人生の中でも五本の指に入る決断でした。



 そんな彼が、僕が地元に帰って1年ほど経ったある日、電話越しで結婚の報告をしてきた時は、なんとも嬉しかったのを覚えています。


 どこかで聞いた言葉があります。


『友達を作ることで1番素晴らしいことは、その友達が幸せになる瞬間を見届けられることである』と。


 それが今、ここに立ってマイクを握っているこの瞬間なのであります。


 時折聞かれることがあります。「警察官になったことを後悔してないか?」と。


 結論から言いましょう。後悔していません。


 何故なら、天谷くんという素晴らしい人に出会えたからであります。これは胸を張って言える、僕の数少ないことであります。


 …………さて、そろそろ時間が近づいてまいりました。


 ここまで私の駄文に付き合って下さった皆様、ありがとうございます。皆様も、素晴らしく度量の深い方々であります。


 こんなスピーチでいいのか、最後の最後まで不安は拭えませんが、この最後の一言をもって、私の友人代表のスピーチとさせて頂きます。


 ………………天谷くん、郁恵さん。二人の未来に幸あれ!

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友人を代表して みささぎ @solne1952

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