第6話「時の和音」
再びピアノの前に戻った奏多(そうた)は、鍵盤に向かいながら心の中に渦巻く疑問を抱えていた。
「過去と未来が繋がったとき...それが最後の音?」
彩音が残した言葉は、深い謎を含んでいた。だが、答えを得るには、さらに前へ進まなければならない。奏多は静かに息を吸い込み、鍵盤に指を置いた。そして次の音を奏でると、またしても眩い光が視界を覆った。
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目を開けると、そこは現代でも未来でもない、中世ヨーロッパのような雰囲気が漂う街並みだった。石畳の道を馬車が行き交い、広場では音楽家たちが即興演奏をしている。奏多は周囲を見回しながら歩き出した。
「ここは...どの時代なんだ?」
そのとき、遠くから聞き覚えのある旋律が流れてきた。彼は音に導かれるように街を抜け、古びた大聖堂の中へと足を踏み入れた。そこで目にしたのは、一人の男性がパイプオルガンを弾いている光景だった。
「君もこの音楽に導かれたのかい?」
男性は演奏を止め、微笑みながら奏多に問いかけた。彼はクラシックの巨匠とも言える存在感を持ち、どこか懐かしさを感じさせた。
「この曲...どこかで聴いた気がする。でも、なぜだか思い出せない。」
奏多がそう言うと、男性はうなずき、続けた。
「この旋律は、時を超えて人々の心に刻まれてきたんだ。だが、まだ完成されていない。君もその答えを探しているんだろう?」
奏多は驚きながらも、彼の言葉に引き込まれるように頷いた。
「どうしてそれを?」
男性は立ち上がり、大聖堂の窓を見上げながら話し始めた。
「音楽には不思議な力がある。過去、現在、未来を繋ぎ、人々の感情を超越する。君が追い求めている旋律も、そうやって時代を超えて受け継がれてきたものだ。」
奏多はその言葉に心を打たれた。そして、ふと自分の中に一つの疑問が芽生える。
「でも、なぜ未完成のままなんですか?完成させることができたはずなのに...。」
男性は微笑みながら答えた。
「それは、君の中にしかその答えがないからだよ。」
そう言いながら、男性は古びた譜面を取り出し、奏多に手渡した。それは、彼がずっと追い求めているソナタだった。しかし、そこにはまたしても新しい音符が書き加えられていた。
「この音符を理解するには、もう一つの時代を知る必要がある。」
男性の言葉とともに、大聖堂のパイプオルガンが一斉に鳴り響き始めた。その音色は荘厳で、まるで時空そのものを揺るがすようだった。
「君が完成させるべきものは、ただの音楽ではない。人々の心を繋ぐ和音だ。」
その言葉が響いた瞬間、奏多は再び光に包まれた。そして、次に目を開けたとき、彼は自分のピアノの前に戻っていた。
手元には新たな譜面が握られていた。そこには、いくつもの音符が書き込まれ、複雑な構成になっていた。
「時代を超える音楽...それが、この曲の意味なのか。」
奏多は深い呼吸をしながら、その譜面を鍵盤に置いた。そして、再び指を鍵盤に落とす。
「次はどこに導かれるんだ?」
新たな和音が響き渡る中、彼の旅は続いていく――。
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