第5話「未来への譜面」
奏多(そうた)は震える手で譜面を見つめていた。そこに記されているのは、自分が未完成のまま放置していたソナタの旋律。しかし、最後の部分には見覚えのない音符が記されていた。それが何を意味するのか、彼には分からない。
「この音符が、未来への鍵なのか...?」
呟くと同時に、奏多はピアノの鍵盤に指を置いた。その瞬間、再び眩い光が視界を覆い尽くし、身体がどこかへと引き込まれる感覚に襲われた。
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目を開けると、そこは未来の大都市だった。空には無数のホログラムが浮かび、地上には人工知能が支配するかのような整然とした街並みが広がっていた。だが、その街には奇妙な静けさが漂っていた。人々の足取りは重く、どこか疲れた表情をしている。
奏多は街を歩きながら、その違和感の正体を探ろうとしていた。すると、遠くから美しいピアノの音色が聞こえてきた。その旋律は、自分が未完成のまま残していたソナタに酷似していた。
音に導かれるように歩いていくと、巨大なホールの前にたどり着いた。その入り口には「未来記念コンサート」と書かれた看板が立っている。奏多は胸の高鳴りを抑えながらホールに入った。
中に入ると、そこには観客が一人もいなかった。だが、舞台中央には一人の女性が座っており、ピアノを弾いていた。その姿を見た瞬間、奏多の心臓が大きく跳ね上がった。
「彩音...?」
彼女は振り向かずに演奏を続けていた。その音色はどこか悲しげで、深い孤独を感じさせるものだった。奏多は恐る恐る舞台に近づいた。
「あなたがこの時代に来るとは思わなかった。」
彼女は静かに言葉を紡いだ。その声は確かに彩音のものだったが、どこか冷たさが感じられた。
「彩音、本当に君なのか?どうしてここに...?」
彼女は一瞬だけ奏多を見つめると、小さく微笑んだ。
「私は、この未来で音楽を守るためにここにいるの。でも、もう遅すぎた。」
「遅すぎたって...どういうことだ?」
奏多の問いに、彩音は立ち上がり、舞台の端に置かれた古びた譜面を手に取った。
「この曲を完成させなければならなかったのに、私たちは間に合わなかった。音楽は人々の心から消えつつある。そして、それは私たちの責任でもある。」
彼女の言葉に、奏多は息を呑んだ。彼女が手にしている譜面は、自分が今まで追い続けてきた未完成のソナタだった。
「君がこの曲を...未来で演奏しているのか?」
彩音は静かに頷いた。
「でも、この曲にはまだ何かが欠けている。それが分からない限り、私たちは未来を変えることができない。」
奏多は譜面を手に取り、その旋律を目で追った。そこには、自分が見覚えのない複雑な音符が並んでいた。それは、彼がこれまでのどの時代でも聞いたことのない音楽だった。
「これが、未来への鍵...?」
彼は呟くと、ピアノの前に座り、譜面通りに弾き始めた。だが、最後の音を弾こうとした瞬間、何かが引っかかり、演奏が止まった。
「この最後の部分が...分からない。」
彩音は彼の肩に手を置き、優しく囁いた。
「その音は、過去と未来が繋がったときに初めて見つかるの。」
彼女の言葉の意味を理解する前に、再び光が奏多を包み込んだ。そして次に目を開けたとき、彼は自分のピアノの前に戻っていた。
「過去と未来が繋がる...?」
彼は彩音の言葉を反芻しながら、再び鍵盤に向き合った。そして、この曲を完成させることで、全ての答えが見つかるのだと信じて――。
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