第2話 奈良
「本日はゲストの方に来てもらいました〜。師匠さんです、どうぞ!」
「どうも」
「今回はこちらのアーティスト、プロのギタリストと一緒です、よろしくお願いします〜」
「よろしくお願いします」
「どうも」
「ではさっそく……」
「あの、」
「はい、なんでしょう」
「私は動画配信者ではないのですが。この楽器店には、そのようなつもりでいたわけではないんです。だから、そう言うのはあまり、ちょっと。出不精なので」
「旅してるのに?」
「はい」
「ご安心ください! これは動画配信ではなく、テレビのミニコーナー、収録です!」
「そうですか。それは良かった」
「では参ります! なんと、こちらのゲスト方は持っただけでギターを当てられる特技をお持ちだとお聞きしております! わかりやすく目隠ししてもらっていますが、不運にも失明されているとのことでしたので、実際にはこの目隠しは意味ありません! 今回はプロの方も一緒に挑戦し、それぞれ解答してもらいます! ではさっそく参りましょう! 1本目!」
1本目? 何本もあるのか。それは聞いていない。
「さあ、手元にはギターがおふたりに、それぞれに手渡されました。どうでしょうか」
私は手にしてすぐ思った。これはギターじゃない。あまりにも軽すぎる。ネックも指板も、触っていないがおそらくボディも違う。これは木じゃない。全部同じ軽いやつでできている。弦も4本しか無いぞ。なんだこれは。ギターを当てる企画なのにギターじゃないって、嫌がらせか? それを楽しむってことか? 低俗だ。
「はい、わかりました」
「おっ、お師匠さん早いですね。プロさんはどうですか?」
「まあ、そうですね、なんとなくは」
「おっ、ではお二方回答が出たようですので、順番に聞いてみようと思います。まずは手前のプロさんから」
「ええと、展示用の、ハリボテです。ギターじゃないです」
「なるほど。先に分かったと手を挙げられたお師匠さんはどうですか?」
「私も、ギターではないと思います。ネックも指板も同一素材、それも木じゃない。プラスチックだ。弦も4本。本数だけで考えれば、ベースに似た物かと思いましたが、弦もチープで楽器用の弦じゃない。ベースの形でもない。ギタリストが弾く普通のギターではない。これはおもちゃのギターです。アンパンマンギターです」
「お見事! お師匠さん大正解です!」
「そうですか。それは良かった」
「ご感想を、何か一言お願いできますか?」
「私ですか?」
「はい! お師匠さんお願いします」
「ええと、そうですね。音は鳴るので、小さいお子さんが触る機会として使ってもらえればいいのではと思います。3歳のお子さんに、クリスマスプレゼントにするのもいいと思います」
「はい! ありがとうございました! 今回はプロさんとお師匠さんでした! またね〜」
番組が終わった。2本目のギターはなかった。これにて本日のギター、楽器店でのギター識別はおしまい。騙されたような気分である。
「師匠、お疲れでやした」
「ああ。なんか疲れた」
それにしてもこいつは口調と一人称がいつも定まらないな。別に構わないが。
「お疲れ様でやんす。それで、ギターは……」
「ああ、アンパンマンギターはもらえなかったが、アンパンマンギターのハリボテなら貰えた。ほれ、舐めとけ」
「ありがとうございます。ではさっそく」
「それはギターじゃないのにいいのか?」
「正規のアンパンマンギターが良かったですが、仕方ないです。こちらで我慢します。アンパンマンギターもとてもいい、立派なギターですので」
「ああ、私もそれには同意する。しかし、ハリボテギターを舐めることには同意できない。お前はそんなもので満足するのか」
「いえ、もちろん物足りないでございますね。しかし、なかなか舐めることを許されるギターに巡り会えないのも事実。禁断症状がでないように、誤魔化すことぐらいはできるかと」
「そうか。好きにしろ」
「はい! ありがとうございます! いただきます!」
そしてギターのようでギターではない何かが、ひとりの変態少女によってべろべろと舐められた。以上。旅は続く。次回に続く。
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