目隠しギター師匠、将又弟子舐めて候う〜視力を犠牲にギターを判別できる超能力を手に入れたらギターを舐めまわす変態少女を弟子に取ることになったので二人の欲望を満たすための全国行脚の旅を始めました〜
小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】
第1話 大阪梅田
「師匠、今日はこの店ですか?」
「ああ、既に予約を入れてある。抜かり無い」
「是非とも舐めたいですね」
「それに関しては同意できぬが、許される範囲で好きにしろ」
「はい! 師匠!」
店に入店すると、店員が普通の客の来店と同じように挨拶をした。私は謙虚な姿勢と言葉で予約の旨を伝えると「お待ちしておりました」と店の奥に通された。
丸い椅子。弟子に手伝って貰い、少し低い丸い椅子に座った。防音室ではないが、多少他の部屋よりは工夫されている。卵のパックでも壁に敷き詰めているのだろうか。私は聴覚を含めた視力以外の感覚は並の人より高くなっているので、視力があった時と同じように全て手に取るようにわかる。視力を犠牲に手に入れたこのギター判別超能力だが、その他の感覚向上も得られた。思わぬ副産物、これはセレンビティピティだった。いや、偶然発見した事実とかじゃないから、棚ぼたか。
「ギターはこちらになります」
「拝借します」
私は本体を膝に置き、ネックを持った。ネックを持てば、他のところを触らずにすべてが分かる。私はすぐに喋った。
「これはPRSですね。ポール・リード・スミス。カスタム24の紫。まず、レスポールの重さではない。軽い。ストラトよりは僅かに重い。仮にレスポール4kgとすると、ストラトは3.0で、このギターは3.63だ。このギターは塗装がとても薄く、さらにラッカーだ。技術が詰め込まれている。ネックの木はマホガニー、指板はローズウッド。安くない。高い。64万弱くらいか。とってもいいギターです。芸術品。私がプロのギタリストだとしたら、ライブで愛用して全国を回ります」
私は超能力を手に入れたと言ったが、しかしあまり使っていなかった。手で触って得られる情報は多く、知識ある人間であればそれだけで分かる。推測すればおおよそ分かる。人間離れした技に見えるが、できる人にはできる人間業。しかし、その領域に到達した人間は須らく変態であることは間違いないだろう。つまり超能力など必要なかったのだ。視力喪失の無駄遣いである。視力を失ったことのほうが大きい。あくまで識別の補足として使うのが精々。ちなみに、この超能力は古代文明の王家に伝わる多大なるチカラを秘めた幻の指輪をはめることで手に入れることができる能力である。つまり、「できる! 今日から始めるギター識別完全版〜視力失う編〜! 初回限定付録は指輪! 」みたいなそんなところである。たぶん違う。
「すいません、舐めてもいいですか?」
「舐める?」
「はい! 師匠の鑑定したギターを舐めるのが趣味……生きがいでして。舐めてもいいですか?」
「駄目ですよ、そんなこと。一応商品なんですから」
「そうですか……では他に舐めても大丈夫なギターありますか?」
「無いですよ、そんなもの。なんなんですか、この女の子。娘さんですか?」
「いや、娘ではない。正しくは弟子だ」
「弟子?」
「戸籍上、じゃなかった、形式上はそうなっている。私はタビトモでありたいと何度も言っているんだが、聞かなくてな」
「師匠は師匠です! すごいんですよ! 一握りでギターを分析できちゃうんですから!」
「まあ、それは今見せていただいたので、とてもわかったのですが、その、お弟子さんはなんでこんなことを言っているのか……」
「それは私にもわからない。きっと彼女の使命なんだろう。気にするな。それと、スマートフォンで撮影した動画は好きにつかってくれ。まさか、ライブ配信ではないよな?」
「はい、録画です。なにか、問題でも?」
「いや、それならいいんだ。ありがとうございました。お邪魔しました」
今日もギターを分析、識別した男と今日もギターを舐めることができなかった少女。ふたりは次の街の楽器屋さんへ、まだ見ぬギターを探し求めて旅を続ける。もちろんこの旅は言うまでもなく楽器屋さんに迷惑である。やれ、ギターを握らせろ、やれ、言い当ててやるぞ、やれ、舐めさせろと、変態御一行のお出ましを歓迎するところなど全国探してもどこにも無いだろう。今すぐにこの旅をここで辞めることが世のため人のためになることである。しかしふたりはどこ吹く風で続ける。次回に続く。
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