第6話 文化祭前夜

 娘にメールで質問が来ます。

 高校で教材として使うタブレットに。


 中学時に不登校になった際は、生徒会に在籍時、皆を纏めることが出来なかったことが発端でした。

 2歳から始めたバトンを辞めたときも、厳しい指導者を知らない部員たちを纏め上げることに疲れたからでした。

 不登校前の娘ならば成績的には問題なかったのですが、長男と同じ高校へは行きませんでした。中学からその高校へ進学する生徒が多いとの理由で。皆にメンタル不全だということが知られたが故。

 高校に入ってから暫くは調子が良かったのですが、今度はグループ発表などを全て任される羽目になってしまいました。

 タブレットに真夜中でもお構いなく「どうする?」、という質問だけ来て、グループで唯一回答を返すのが長女です。

 こうしたらいいのでは? という意見も来ません。

 見かねた私がアイデア出しの手法、KJ法・ツリー式などのテクニックを教え、手助けします。

 しかしそれがかえって更に信頼を得、皆に頼られるという悪循環に陥ってしまいました。宿題をする時間もありません。

 本末転倒じゃないか。

 私はアポを取って学校まで出向き、どういう指導をしているのか、担当教官・担任・教頭と面談しにも行きました。

 蓋を開いてみると、未完成グループが半数で、優秀賞です。

 しかもどうやらこの「グループ討議」は成績に反映されないらしいのです。


 手を抜くとか、ほったらかしに出来ない性分の娘は、「私がやらないと」と無理をしていたのです。

 役割分担させるとか、人に頼るとか要領のいい方法もあるのに、結局全部やってしまうのです。

 人は自分に利のある選択をするはずなのに、奉仕精神を刷り込まれた娘は辛くても動いてしまう。


 無理をしていることを知らないクラスメートは娘に頼り切り、何でも出来る完璧な人間だと認識したようです。それは先生も例外ではありませんでした。

 時々開かれる発表会や学園祭での娘の様子を見ても、友人達と親しく話していました。ですので人間関係で悩んでいること自体が私にも解りません。周りの人達も気づいていないでしょう。

 家でタブレットに向かい「何故私だけ・・・・・・」と愚痴を溢しているのを聞いているのは家族だけ。

 私は完璧な人間じゃない! と呟いていることもありました。

 娘にとって「完璧」と言われることが、一番のストレスのようでした。

 

 学園祭が開かれる時期が来ました。

 娘にとって最後の行事です。

 昨年は娘がバトンを披露するとこから始まって、クラスは1位を獲りました。

 去年の今頃は皆で踊りの練習に付き合って笑いあった記憶が蘇ります。

 相変わらず娘のタブレットはひっきりなしに着信音が鳴っていました。

 時には先生からも入り、「それは〇〇係の担当です」と返信しています。

 辞めるのに、何故まだやらなければならないのか、私にはわかりません。

 


 学園祭の日を迎えました。

 その日はプレゼンと創作劇の発表でした。

 前日はクラス対抗の短編劇やダンス。

 今年は久しぶりに休日に行われ、私も観に行くことが出来ました。

 そこで衝撃の出来事が待ち受けているなど、全く私は、想像もしていませんでした。

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