第5話 退学

 学校を辞める。

 娘から出た言葉に、力が抜けていきました。

 今まで行ってきた全てが、徒労に終わったのだと。


◇◇◇◇

 今回は通院することにしました。

 妻と一緒に通い、まだ休みを取ることもありましたが、落ち着いたようでした。  

 そして「公認心理士」になりたいと思っていることが判りました。長くスクールカウンセラーと接してきた娘にとっては、ごく自然に芽生えた目標かもしれません。

 目標が出来たことは良いことですが、感情移入が過ぎる娘にとって、危うい選択ではないかと悩みました。

 信頼を得すぎて、娘への依存症患者が出てしまうのでは?

 相手の感情に深入りし、もっと酷い精神状態になりはしないか?

 それに娘が高校で選んだコースは私立文系で、地元の私立大学には資格を取れる学部がありません。

 今の状態で県外に独り暮らしをさせることなど、とてもではないがさせることは出来ない。そう思いました。

 暫く連絡がなくアパートを訪ねると娘が自殺していた。

 そんな結末は、想像もしたくありませんでした。

 

 先ず前提として「今の状態で独り暮らしはさせられない」と宣言しました。

 次に、先生に進路相談の場を設けてもらうこと。

 私が調べたところ、地元の国立大学に学部がありました。


 担任の先生は時間を調整して連絡をくれることになり、早く担任と相談したかったのですが、一カ月待っても連絡が来ないのでこちらからアポを取りました。

 話を聞くと、国立大学を受験するには、今のコースでは単位が足りないことが判りました。別のコースに変更した場合、1学年下からやり直さなくてはならないらしいのです。目標進路変更のために出来る方法があるか検討すると約束してくれましたが、娘は突然「私は学校を辞めたいんです」と切り出しました。

 友人が学校を辞めようと考えている。その友人と話し合った結果、この学校では受験勉強に専念できない。私も辞める、と。

 受験に関しては理解できましたが、勉強は頑張れるとして、受験対策を指導してくれる人がいません。

 私は志望学部受験がこの高校で可能なのか調べに来たつもりでした。辞めるのはその結果次第で伝えても良いのです。今言ってしまえば、先生は調べてくれないかも知れません。事前に打ち合わせしていなかった私のミスですが、今言葉にする理由が判りませんでした。


 私は別の高校へ転入する方法は無いか調べましたが、県の教育委員に聞いても入試し直すしかないと言われました。基本的に転入は転勤都合が条件なのです。私立に行くにしても、同じく1学年下への転入になるでしょう。

 娘は高卒資格取得のために通信制高校を調べ、高校から回答もなく、家から登校できる大学を選択するとなると、確かに退学しか方法は無いと思われました。娘に集中する学校行事雑務を勉強に向けられるなら、悩みもなくなり、受験に専念できると。


 数日後「辞めるので必要書類が欲しい」と告げると、担任は「それは予想していなかったので・・・・」と慌てていました。

 冗談で相談に行ったとでも思っていたのでしょうか。

 

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