第3話 通院

 妻は演技だと言いましたが、私は緊急事態だとして対処を始めました。

 会社でメンタルヘルス講習を受け、部下3人の対応経験もあり、その際相手の気持ちに深入りしすぎ、私自身もケア経験がありました。

 逆に妻の方は精神科勤務時代、明らかに生活保護目的の患者を何人もみていたため深刻さに気付いていませんでした。


 リストカットは心の叫びです。

 自分の苦しみを他へ転換できない子が行き着く先。

 それが自傷行為、つまり自分です。

 そして普段は普通に振る舞うのです。

 気付いて欲しいが知られたくない。

 その葛藤の末、行為に及ぶのです。

 しかも頭の良い子ほど、頑張ろうとする子ほど、隠すのが上手です。

 しかし同時に自分を嫌悪し、負のループに迷い込むのです。


 他人が気付く傷と言うことは、自分を制御が出来ないレベルまで来ている。

 痛みで発散していたストレスが解消されずエスカレートし、力加減が出来なくなっている。

 自殺するつもりが無くても、何時動脈を切断してしまうか判らないのです。


 私が仕事を辞めて、娘につきっきりになる事は出来ません。

 病院での診療の他に、スクールカウンセラーと電話で話し、妻の状況を話し、妻には内密に別途、妻にもカウンセリングを行うようにお願いしました。



 何度かのカウンセリングの後。

 妻は言いました。


 あの子があんなにシグナルを出していたのに。

 私は気付いていたのに、何もしなかった。

 とんでもないことになるところだった。

 と、涙ながらに。

 

 それから長女は徐々に快方に向かい。

 高校にも受かりました。

 環境が変わったことで、妻と友達のことや芸能人の話を楽しそうにするようになりました。

 食べる量は変わりませんが、吐くことを止めたので徐々に身体が丸みおび、妻の話では初潮を迎えたそうでした。


 妻と仲良く話す姿はうらやましくもありましたが。

 長女にしてみれば、妻は最初に乗り越えないといけない壁だったのかもしれません。

 恐らく私も子供達の壁になっているでしょう。


 以前と変わってしゃべりまくる長女を見ながら、私は警戒を緩めませんでした。

 うつではないとの診断がもし間違っていたら。

 躁状態の方がかえって危険だからです。

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