いぬいめぐショートショート集

いぬい めぐ

糖質を切り取るハサミ

 今からちょっと遠い未来の日本でのお話。そのハサミは全世界の人を救う、画期的な発明だと脚光を浴びた。

 大昔から人々を悩ませてきた、にっくき糖尿病。甘いものが食べたくて食べたくてたまらない人たちから、甘いものを食べる楽しみを奪ってしまういやな病気。その病気に対抗する手段を、ポポロ博士は考えたのだ。

 自身もまた甘いものが好きで、糖尿病に苦しんでいるポポロ博士が考案した画期的な発明とは……それは『食べ物のよぶんな糖質を切り取ってしまうハサミ』だった。

 使い方は簡単。そのハサミで食べ物や飲み物をちょんと切れば、よぶんな糖質のみ切り取られ、美味しさだけが残る。切り取った糖質はゴミ箱に捨てればいいだけという手軽さ。難しい操作だったり、気をつけるべきデメリットだったりもない。人々はそのハサミをこぞって買い求めた。

 そうして人々は糖尿病の糖質制限から抜け出し、甘いものをたくさん楽しめるようになった……のだが。


「え!? 地球が糖尿病になってしまったですって!?」

 最近地球が丸く太ったように大きくなってしまったことをきっかけに、宇宙局の人々と地質学者が協力して地球を調べたのだ。すると驚くべきことに、ゴミとして捨てた糖質が地球を太らせ、糖尿病にしてしまったのである!

「このままでは地球が可哀想だ」

 地球が糖尿病になったと一報を受けたポポロ博士はうむむと唸り、ハサミを自主回収することに決めたのだった。

 最初は不満の声もあったけれど、地球が糖尿病になっては可哀想だ、と皆ハサミを手放すことを承知した。

 やっぱり甘くて美味しいものは、節度を持って食べなきゃね。美味しい話なんてなかったことに少しがっかりするポポロ博士だったが、甘いものはほどほどに食べればいいだけの話なのだと自分を戒めた。

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