第10話 アニ研の合宿の計画
七月二日、午後二時。
七月定期考査も終わり、生徒の半数は家に帰って少し静かになった、独特な雰囲気の校舎内。
その一室、アニ研の部室で、どこかやりきった感を出してごろごろしていたアニ研メンバーたち。
なぜ部室みんな揃っているのか、それは、定期考査が終わり、部活動が解禁されたためである。
いやまあそれでも、普通だったら定期考査後に部活に来る人なんて半分くればいい方だろう、それなのに何で全員が?と思っている人もいるかもしれない。
確かに、せっかくの定期考査後、家に帰ってゴロゴロしたいと思う。俺だって今日は、学食で昼食を食べたら即帰宅するつもりだった。
しかし、さっきスマホに通知が来たので見てみると、アニ研のグループライン、青木部長から、「池沢先生からみんなに話しておきたいことがあるんだって。だから、二時くらいには部室に集まってて」みたいなことが書かれていた。
ちなみに、池沢先生とはアニ研の顧問であり、図書室の先生でもある。ほとんど部室に顔を出してこないため、つい最近まで全然知らなかったが。
それで、今日は全員部室に集合している、というわけだ。
「......池沢先生、遅いですね」
「た、確かにね、何かあったのかな?」
............
部室もいつもより静かだ。まあ、みんな定期試験後で疲れているんだろう、いつもおしゃべりな琴音も今日は静か......って爆睡してるじゃねえか!
「ちょ、ちょっとことちゃん、よだれ垂れてるよ?」
「ふ、ふえ?えっ、もう時間?まだ半分も解けてないのに~」
寝ぼけ眼で寝ぼけたことを言う琴音。試験の夢でも見てたのか?
コンコン
「もうみんな来てるかな?」
そんなことをしていると、池沢先生が部室に入ってきた。
「あっ、こんにちは」
「こんにちは~」
「うん、こんにちは~。みんな、試験はどうだった?」
今回の試験で嫌というほど聞いて来たフレーズだな。主に同級生から、たまに先生と親から。
「俺はまあ、いつも通りでした」
「ぼ、僕はよくできたほうかと思います」
「えっと、私もいつもよりできた、と思います」
優等生ども(青木部長は知らんが)はよさげな返答をする。優希に至ってはいつも通りって......なんかむかつくな。
「俺は、まあ、今回は良い方だと思います」
いつもよりは手ごたえがあった感じがする。
それで、あとは琴音だけだが、果たして......!
「......惨敗です、はい」
机に突っ伏したままどこか哀愁感を漂わせて言う琴音。
「で、今回そのようなことになって原因は何だと思われますか?」
なんかちょっといじってやりたくなったので、俺は琴音にそう聞いてみる。
「えーと、気になってたアニメが先週全話無料配信されてて、テスト終わって帰宅した後とかに勉強せずにアニメ見まくってたからかな?」
「うん、百パーお前が悪いな。反省しろ」
「ちょっと!?そこまで言う必要なくない?自分でも十分すぎるほどわかっているんだから......」
片手で頭を抱えるようにする琴音。いや、でも......
「お前、中学の時も似たようなことなかったっけ?えーと、ほら、二年の時の、二学期の期末試験」
すると、琴音の体はビクッと震え、視線をずらす。
「あ、あれぇ?そんなことあったっけ?覚えてないなぁ?」
できもしない口笛を吹きながらそんなことをのたまう琴音。
「まあ、別にいいんだけどね、俺は。お前が苦労するだけだし」
「そんな冷たいこと言うからモテないんだよ?」
「余計なお世話だ」
「ほ、ほらほら、そろそろやめようか。池沢先生が話できないよ?」
青木部長が俺たちの間に入り仲裁に入る。
「僕としては別にそのまま見ていてもよかったんだけど......まあいっか」
なぜか、池沢先生は少しつまらなそうな顔をして、みんなの前に立つ。
「今日みんなに集まってもらったのは、アニ研で合宿するからその内容とかを話し合うためだよ~」
「合宿ですか?」
「あ、あれ?一年生たちはもっと驚くと思ってたのに?」
俺たちの反応が予想外だったらしく、首をかしげる池沢先生。
「前に青木部長が言ってましたから」
「えっ、いつの間に」
「......えっ、僕?えっと、確かに、言った気が......」
急に自分の話をされて戸惑う青木部長。
「ま、いっか。それじゃあ、何か合宿で行きたいところとか、したいこととか言ってみようか!ほら、どんどん出して!」
部室にあるホワイトボードに置いてあるペンを取り、ノリノリで俺たちに意見を求める池沢先生。
「はいはい!アニメの舞台になった聖地を巡るのがいいです!」
真っ先に手を挙げ自分の意見を言う琴音。こっちもこっちでもうすでにノリノリである。
「はいはい、聖地巡礼ね、他には?」
ホワイトボードに『聖地巡礼』と書く池沢先生。
「俺はアニフェスに行ってみたいです!」
今度は優希が挙手して意見を言った。
アニメフェスティバル、通称アニフェス。八月に行われる日本国内で最大級のアニメの祭典で、アニメ作品やキャラクターに関連したグッズの展示や販売、ライブ、上映会、トークショーなど、様々なイベントが行われる。アニメファンの聖地だ。
「アニフェスっと、ほら、もっとどんどん出してみて」
「え、えっと、じゃあ僕は、コラボカフェとかグッズ販売会とかに片っ端から行ってみたいです」
「わ、私は、アニメーション制作会社の見学に行ってみたいです」
青木部長と小鳥遊さんもそれぞれの意見を言う。
「はいはいっと。田中君は何かないかな?」
「えっ?そうですね......」
いきなり尋ねられて焦る俺。どうしよう、俺が思っていたことほとんど言われてしまったんだが。
何かないか、何か......あっ、そうだ。
「そういうイベントごと終わった後とかに、みんなでアニメ見まくりたいですね」
「ああ~!そういうのもいいかもね」
ホワイトボードに『アニメ鑑賞』と書く池沢先生。
「とりあえずはこんなもんかな。みんな、もう意見はないかな?」
「ないでーす」「ありません」「ないですね」「な、ないと思います」「は、はい」
「オッケー、じゃあ、この中から決めていこっか」
ホワイトボードに書かれているのは、『聖地巡礼』『アニフェス』『コラボカフェ』『グッズ販売会』『アニメ制作会社見学』『アニメ鑑賞』の六つ。
「まずは、残念ながら『アニフェス』が消えるね」
「ええっ!?何でですか?」
驚きの声を上げる優希。池沢先生に理由を問う。
「理由は単純。交通費だけで死にます」
「交通費ですか?」
「うん、ここからアニフェスの会場に一番近い空港までだと、一人当たり安くても片道一万円くらいはかかるんだよ。往復で二万円、全員分だと合計で十二万円。宿泊したりするなら、二十万円を超すかもしれない。さすがにね~、無理です」
「そ、そうですか......」
がっくりと肩を落とす優希。確かに、二十万円も出せないよな、さすがに。
「あと、『アニメ制作会社見学』もさすがに無理かな」
「やはりそうですか......」
小鳥遊さんもまた肩を落とす。まあ、これは俺から見てもかなり難易度が高いと思ったからな。
前にスマホでちょっと調べたことがあったけど、応募で抽選して、だったり、かなりお金が必要だったり、もしくはその両方だったり。うん、無理だな、あきらめよう。
「あと残ったのは、一応可能ではあるかな。じゃあ、ここから決めるってことで良いかな?」
うんうんと頷く三人。若干落ち込みながらも頷く二人。
「オッケー。じゃあまず聖地巡礼だけど、ここら辺にある聖地って、どこかあるかな?」
「ここら辺の聖地......あれ、何だろう」
こんな田舎にアニメの聖地なんてあったっけ?
みんなで首をひねっていると、琴音が声を上げる。
「『灰色の世界で、僕は君と出会った』とかかな。あと、『音の声と声の色』とか?どっちともあんまり知られてないけど」
「うん、知らないな。そんなのあったんだな」
「俺は見たことあるよ。ここが舞台なんてのは初めて知ったけど」
優希は見たことがあったようだ、さすがだな。
「じゃあ、そこに行こうか?」
「えっと、私そこの聖地にはもう行っちゃったんですよね。それに、見たことがないところの聖地見ても感動とかはないかな、と」
「それもそうだよね~、どうしようか?」
そうして、また悩む。
「あ、あの、少し遠出をして、聖地を巡ればいいんじゃないでしょうか?」
小鳥遊さんが遠慮がちにそう言う。
「まあ、確かにちょっと遠出すれば都会に出るし、聖地も結構あるかもね。やっぱり聖地っていうか、アニメの舞台になる場所って都会に集中しちゃうから」
「ですよね~、田舎の方にもあるにはあるんですけど、数は少ないですから」
池沢先生と琴音が語っている。聖地あるあるを語っている。
「じゃあ、聖地巡礼の方は少し遠出をして巡っていく、って感じで良いかな?詳しいことは後々に決めるとして」
「はいっ!」
みんなが普通に頷いている中で一人、琴音はガッツポーズをして元気よく返事をした。
「『コラボカフェ』と『グッズ販売会』は、聖地巡礼した後か間に行くのがいいかもね~」
「そ、そうですね!」
青木部長も自分の案が通って嬉しそうだ。
「あとは『アニメ鑑賞』だけど......これ、意外とハードル高いかもね」
「えっ、どうしてですか?」
結構簡単と思うんだけど......
「ほら、宿泊するホテルとかにはテレビはあっても、アニメが見放題!みたいなサブスクは普通ないでしょ?」
「あっ、言われてみれば確かに......でも、帰ってきてからみんなで集まって見ればいいんじゃないですか?」
「ん?あっ、それだったらいいかもね!そうしようか!」
「よしっ!」
俺の案も通った!
「じゃあ、色々細かいことはまた今度話すとして、今日はこれくらいにしておこうか。じゃあね~」
池沢先生はそう言って部室を後にした。
「じゃ、じゃあ、そろそろ僕たちも帰ろうか」
「そうですね」
そうして、俺たちもまたそれぞれ帰っていった。
超モテる奴が親友なので、俺には損な役回りしか来ないのですが? 啄木鳥 @syou0917
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