第9話 勉強会……ではなくて、王様ゲーム

 「やったー!」


 まず、最初に当たりを引いたのは、琴音だった。


 「じゃあね、」


 「あっ、名指しじゃなくてちゃんと番号で言えよ?」


 「......わかってるよ」


 いやこいつ、どさくさに紛れて名指しで命令しようとしてただろ。具体的言うと、小鳥遊たかなしさんと優希を、名指しで。


 「じゃあ、三番の人は二番の人に壁ドンして?」


 琴音の奴、ダメもとで言いやがった。つーか壁ドンって。古くね?いやまあ、確かにラブコメ的には有効打なのかもしれないが......


 そういや、俺の番号は何番だっけ......嘘だろ、おい。


 俺は手に取った割り箸に書かれている番号を確認した。二番だったんだが......


で、でも!三番が優希か大山だったら、絵面的にはまずいが俺的には問題ない!さあ、だれだ、三番!


 「あ、あの、私、三番です......」


 恐る恐るといった風に手を挙げたのは......小鳥遊さんだった。


 「......ふーっ」


 俺は大きく息を吐き、両手で顔を覆い隠し上を向いた。


 ......まずいって、これは。


 

 結局俺は小鳥遊さんに壁ドンされることになった。


 俺と小鳥遊さんでは身長差があったため、俺は座った状態で壁ドンをされることに。結果的に、小鳥遊さんが俺のことを押し倒しかけたみたいな絵面になってしまった。


 そして、その時の小鳥遊さんは耳まで真っ赤に染まっていて、なんかプルプル震えていた。いや、俺も顔赤くなってたと思う。だって熱かったし、顔も耳も。


 「いやー、良いものを見せてもらったよ!まさか、ぷっ、樹があんな、ぷぷっ!顔するなんてね」


 「琴音、お前、あとで覚えてろよ」


 こいつ、絶対に仕返ししてやる......!


 「は、はい、じゃあ、また混ぜるから、くじ俺に渡してね」


 さっきのを見て若干引いたような、っていうか、これから自分もあれをするのか?みたいな顔をしていた優希が、割り箸を集めてくじ箱を振る。


 「はい、じゃあ引いてください」


 そうしてまた、俺たちはくじを引く。今回当たりを引いたのは......!


 「よしっ、俺だ!」


 「くそー!」


 俺だった。手には、先端が赤く塗られた割り箸を手にしている。


 「あっ、名指しはだめだからね?」


 「くそっ、わかってるよ」


 このルールさえなければ琴音を名指しで仕返しできるのに!


 いや、何かないか?番号だけで琴音に仕返しできる方法は!何か......


 「......一番の人は何かものまねやって」


 なかった。何にも思いつかなかった。


 面倒だったので、俺は適当に命令をする。


 「一番私だよー!」


 「えっ、マジ?」


 なんと、一番は琴音だった。ちくしょう、ならもっと難しい命令にするんだった!


 「じゃあ、やりまーす!」


 琴音は大きく手を挙げてそう言った。


 そして、後ろを向き顔だけ斜め横下の方を向く。何かのポーズだろうか?


 「俺はただ、あいつが、俺が惚れた女が幸せになりゃ、それでいい。そう、ただ、それだけで......」


ん?なんか聞いたことがあるようなセリフなような......なんだっけ?


 「ことちゃん、それってあれだよね?『茨餓鬼バラガキ』の虎君のセリフだよね?すごい、似てる!」


 「あっ、何か聞いたことあると思ったら、それか」


 「確か、アニメの七話目で虎が相手に負けを認めようとしたときのセリフだよな。あえて有名になってない方の名言を言うとは......」


 アニ研メンバーは全員わかったみたいだな。というか優希、お前よくそのセリフの時のシーンとかパッと出てくるな。どんだけ見てんだよ。


 「えっ、何?何のセリフ?」


 「俺、そんなの聞いたことないぞ?」


 アニ研じゃない方はやはりわからなかったみたいだな。まあ、そりゃそうか。


 わからなかった米倉さんと大山のために、俺が説明をする。


 「これは、『茨餓鬼バラガキってアニメの中のセリフなんだよ。まあ、知らないと思うけど」


 「う、うーん?バラガキってのは、何か聞いたことあるような?」


 「俺、アニメとかは見ないからわからんな!」


 まあ、知らないからこういう反応になるよな。


 「じゃあ、また集めようか」


 そうして、また優希がさっきと同じことをする。


 「はい、じゃあ引いてください」


 俺たちはまたくじを引く。今回は、果たして......!


 「あっ、俺だ」


 今回当たりを引いたのは、優希だった。


 「さあ、どんな命令をいたしますか、王様?」


 「えー、どうしようかな」


 優希は悩む。琴音は結構乗ってきてるな。


 「よしっ、じゃあ、四番の人は二番の人に胸がときめくようなかっこいいセリフをよろしく!」


 おっ、優希もかなり乗ってきてるな。ほとんど琴音と変わらないようなこと言っている。


 「えっと、四番と二番って誰?」


 「あっ、二番は私だよ」


 俺がみんなに尋ねると、米倉さんが手を挙げて答えた。


 「あっ、私四番だ!」


 四番は琴音だった。さあ、どんな感じになるのだろうか?


 「じゃあ、米倉さん、ちょっと私の正面に立ってくれる?」


 「え?うん、わかった......」


 そうして、米倉さんと琴音が向かい合って立っている形になった。すると、こうやって見つめ合っているだけで、米倉さんの頬がかすかに赤く染まってきた。


 すると突然、琴音が動き出した。米倉さんの耳元まで顔を寄せると、そっと、だが、俺たちに聞こえるくらいの声で囁く。


 「お前、今夜は絶対に帰さないからな?覚悟しろよ?」


 琴音がそう囁くと米倉さんが、ボッという効果音のようなものとともに顔が真っ赤になった。


 そうしてすぐに、米倉さんは耳を押さえて琴音から離れる。


 「どうだった?昔お母さんが読んでた少女漫画を参考にしてみたんだけど」


 「え?えっと、その、なんか、すご、かった、です?」


 「ほんと?嬉しいなー!これも結構練習してたんだよね!」


 こいつ、男に生まれてきた方が良かったんじゃないか?


 俺は少しそんなことを考えるが、すぐさま首を横に振る。


 いや、それだと俺の周りのモテ男が二人に増えるから、さらに面倒なことになるな......


 「ほらほら、どんどんいこー!」


 「はいはい、じゃあまたくじ集めるよ~」


 「えっ、まだするの?」


 「も、もうやめましょう」


 被害、というか恥ずかしい目に遭った米倉さんと小鳥遊さんが反対の意思を見せる。


 「えー!じゃあ多数決で決めよう!はいっ、まだ続けたい人ー、挙手!」


 琴音が声を上げると、俺、琴音、優希、大山の四人が手を挙げた。


 「決まりだね」


 「えっ、えっ?田中君は反対してくれるかと思ったのに。うっ、裏切りですか?」


 小鳥遊さんがショックを受けたような顔をして俺にそんなことを言う。


 「裏切りって......いやまあ、最初のは恥ずかしかったけど、それからなんか楽しくなってきたからさ」


 「そ、そうですか......」


 「ほらほら、もう決まったから、早く続きやろー!」


 「ほら、引いて引いて!」


 琴音はともかく、意外と優希もノリノリだな。まあ、もともとこういうの好きだったしな。


 「あっ、わ、私、王様です!」


 「えっ、ほんとに!よかったじゃん!ほら、早く命令をお願いしますよ、王様!」


 えっ、小鳥遊さん、もう引いたの?さっきまで落ち込んでたのに......意外と乗り気?


 「じゃ、じゃあ、えっと............」


 そうやって、俺たちは予想以上に王様ゲームを楽しみ、時間はあっという間に過ぎていった......


 

 ◇◇◇◇◇◇



 「外だいぶ暗くなってきたね......って、もう五時半!?」


 「えっ、もうそんな時間か?やばい、そろそろ帰らないと」


 いつの間にか日は傾きかけており、窓からは夕日の光が差し込んでいた。


 「わ、私、大事な用事を忘れてました......」


 「えっ、えっ?何の用事?」


 小鳥遊さんがわなわなと震えて言っている。琴音が何なのかと尋ねた。


 「今日の六時半から、映画『今からでもアオハルは遅くないっ!』が地上波初放送されるんですよ!」


 「ああっ!そういえばそうじゃん!」


 「えっ!あれって今日放送だったのか?」


 やばいやばい、それまだ見てないからめっちゃ見たいんだが。


 「えっと、それって確か一年前くらいに結構人気出てた奴だよね?」


 「俺も名前だけは聞いたことあるぞ!」


 かなり有名で人気が出ていたアニメ映画だったから、米倉さんと大山も知っていたようだ。


 「じゃ、じゃあねー、優希!」


 「お、お邪魔しました!」


 「お、おいっ、琴音!スマホ忘れてるって!」


 「えっ?あっ、ありがとね」


 「小鳥遊さんも筆箱忘れてるよ!」


 「ふえっ?あっ、はい、すみません......」


 慌てすぎだろ、二人とも。


 「じゃあな、優希」


 俺はそんな二人を横目に、一人部屋を出る。


 「ちょっと、樹!リュック忘れてるって!」


 「......すまん」


 俺もかなり慌ててたみたいだ。


 俺たちは忘れていた荷物をちゃんと持って、今度こそ部屋を出る。


 「大丈夫?忘れ物はない?ちゃんと確認した?」


 「お母さんかよ、大丈夫だって。ちゃんと確認したから」


 「そう?ならいいんだけど......じゃあね!」


 「はいはい」


 そうして、俺たちは優希の家を出て......俺、琴音、小鳥遊さん、の三人はそのままダッシュで自分の家まで走っていった。

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