第8話 勉強会 3
カリカリカリ、ペラッ、カリカリ
みんな黙々と勉強に取り組む。部屋にはシャーペンで書く音とページをめくる音だけが聞こえてくる。まるでテスト中の時のようだ。
「なあ、斎藤!ここってどうすれば解けるんだ?」
否、普通に大声で話している奴が一人いた。
「えっとね、これは聞かれているのがWhere、つまり場所だから、それに当てはまるものを文中から見つければいいわけで......」
「ってことは、これか!」
「いや、そっちじゃなくて、トムの出身国じゃなくて訪れたことのある国の方を聞かれているから......」
「ちょっと、これ国の名前なのか?ゲ、ゲーメニー?なんて読むんだ、これ?」
「それドイツだよ?まず聞かれている国の名前じゃないし......」
だいぶ苦戦しているようだな、つーかゲーメニーって。まあ、俺も初見じゃ読めなかったけども。
隣で騒いでいるのは置いておいて、俺は自分の試験勉強に取り組む。ちなみに、俺が今やっているのは物理だ。正直よくわからん。
合成速度やら相対速度やらなんかよくわからんのが出てきて、しかもそれをグラフにしたら面積は何を表すだとか意味不明なこともしてくるのだ。
さらに、それを使って計算もしなければならない。理解できてないのにそれを使うとか、もはやいじめである。
「ちょっと......」
優希にわからないところを質問しようと思ったが、優希は大山に教えるので手一杯みたいだ。他に誰かいないかな......あっ、いた。
俺は席を立って、米倉さんに教えてもらおうと思って声を掛ける。
「米倉さん、ちょっとわからないところがあるから、教えてくれない?」
「ふえっ?あっ、ああ、うん!いいよ!」
あれ、今俺が声かけたら少しテンパったような?どうしたんだ?
俺は不思議に思い覗き込んだ。すると、後ろに『斎藤優希』と名前が書かれた現国の教科書を手に持っている米倉さん。
「あ、えっと、これは、その......」
「なんで優希の教科書持ってるの?」
俺は小声で尋ねる。
「あ、あの、斎藤君が教科書にどんな書き込みしているのか気になって......」
やってることが可愛いな、おい。俺はてっきり優希の教科書を盗もうとしていたんだとばかり思ってたよ。
「それで?どんなことが書いてた?」
「えっと、登場人物のとある場面での心情だったり、なぜこんな行動をしたのかとか、色々詳しくわかりやすく書かれていました......」
どんどん声が小さくなる米倉さん。
「また秘密が増えたな」
「うう......」
俺はそう言って米倉さんの肩にポンと手を置く。あれ?俺なんかちょっとキモくね?
いや、まあいいか。それよりも物理だ物理、米倉さんに質問しなきゃ。
「あのー、それで、物理の質問があるんだけど......」
「えっ?ああ、うん、どこかな?」
米倉さんも気持ちを切り替えたようで、俺の質問を聞こうとテキストを覗き込む。
......なんか距離、近くね?いやまあ、一つのテキストを二人で見たらこうなるか。
「えーっと、ここがわからないんだけど......」
「えっとね、これは......ほら、ここの公式を使えば結構簡単に求められるよ」
「えっ......あっ、本当だ。ありがとう、助かった!」
「どういたしまして」
そうして俺は自分の席に戻った。
「ちょっと、小夜ちゃん。ここってどうすればいいの?」
「えっとね、これはこっちの公式を使って解いた後、次は......これ!この公式を使えば求められるよ」
「えっ?えっ?ちょっと待って、頭がこんがらがってきた。もう一回説明してくれない?」
琴音は、
(さて、俺も勉強再開するか)
そうして、結局特に何もなく時間は進んでいった。
それから約一時間後。
コンコン
扉がノックされて、優希の母親、千夏さんが部屋に入ってきた。人数分のジュースとクッキーを持っている。
「みんな、勉強頑張ってるわね。クッキー焼いてみたからよかったら食べてね~」
千夏さんはそう言うと、ジュースとクッキーを置いて出ていった。
「みんな、そろそろ休憩にする?」
「「賛成ー」」
優希の提案に俺と琴音が即返答する。
「......お、俺も早く休憩が、したい......」
勉強をしすぎたせいかかなり疲れた顔をして机に突っ伏している大山。まあ、俺も結構疲れたからな。
「ほら、休憩するから早く勉強道具退けよ!」
勉強道具を手早くカバンに入れる琴音。こういうときだけ動くの速いんだよな。
「こ、これ、斎藤君のお母さんが焼いたの?」
「うん、母さん最近こういう手作りお菓子にはまっててね。毎日のように作ってるんだよ」
「そ、そうなんだね」
おっ、小鳥遊さんが自分から優希に話しかけてる。成長したな。
「うんうん」
琴音はその光景を見て、腕を組んで大きく頷いていた。一体誰目線で見ているんだ?
「おおっ!このクッキー旨いな!」
いつの間にか、さっきまで倒れていた大山がクッキー一つで復活していた。
「っておいおい!そんな一気に食うなよ!俺たちの分がなくなるだろうが!」
「えっ?あっ、ごめん、つい!」
すでに皿からはクッキーが半分近く消失していた。あの短時間でどんだけ食ったんだよ、もともとかなりの量あったぞ?
「私も食べてみよ......って何これ!美味しい!」
米倉さんがクッキーを食べて感動の声を上げる。えっ、そんなに?
「俺も食べてみようかな......えっ、旨っ!」
「ちょっと、私にも頂戴!」
「あ、ああっ、わ、私も!」
そうして、俺たちはひとまず勉強のことは忘れて、夢中でクッキーをむさぼった。
「はあー、美味しかった!」
「ああ、満足満足!」
あっという間にクッキーはなくなってしまった。いやー、旨かったな!
「じゃあ、また勉強を始めようか」
「「「......えー」」」
せっかく幸せな気分だったのに、優希はそれをぶち壊すような発言をする。
それに対して微妙な反応、いや、反対の意思を示した三名。具体的に言うと、琴音、大山、そして俺、田中樹だ。
「私は別に問題ないわよ?」
「わ、私もです」
米倉さんと小鳥遊さんは勉強しても問題ないことを伝える。
......優等生め。
「ま、まあ、勉強ばかりしても疲れるから、少し他のことをしようか?」
「「「賛成!」」」
優希が気を利かせてそう提案してくれた。
「でも、何する?」
俺がそう聞くと、少し時間を空けて琴音が挙手する。
「はいはい!私、王様ゲームがしたい!」
......絶対何か企んでやがるな。つーか、古いな、一昔前の合コンかよ。
「あ、あの、王様ゲームって何でしたっけ?」
小鳥遊さんはルールを知らなかったみたいなので、俺が教えてやる。
「えっとね、簡単に説明すると、くじを引いてあたりを引いた人が王様になる。そして、王様は一つだけ他の人たちに命令をして、それが終わったらまたくじを混ぜて引く、大体そんな感じかな。どう、わかった?」
「なんとなくですけど、わかりました」
わかったような、わかってないような顔をする小鳥遊さん。まあ、やってみればわかるか。
「じゃあ俺、割り箸とか持ってこようか?」
「あっ、うん、お願い」
優希はくじに使う割り箸やらくじ箱を持ってくるため、いったん部屋を出て一階へ降りていった。
少しして優希が割り箸と筒状の箱を持って戻ってきた。箱の方はくじ箱用だろう。
そうして優希は割り箸の上、手で持つ方にペンで番号を振っていく。最後の割り箸は赤ペンで塗りつぶしていった。
それを、何か書いている方を下にしてくじ箱に入れ、優希はルールを説明していく。
「このくじを引いて、赤く塗りつぶしている奴を引いた人が王様ね。王様になった人は一回だけ他の人に命令ができるけど、名指しじゃなくて番号で言って。番号は一~五まで振り分けられてるから。わかった?」
「「「「「はい!」」」」」
俺たちが返事をすると、優希はくじ箱を振っていく。
「はい、じゃあ引いてください」
優希の声と同時に、俺たち(優希も)は割り箸、くじへと手を伸ばした。
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