第7話 勉強会 2
ガチャッ
「おっ、琴音の奴、やっと来たか」
勉強会を始めておよそ三十分後、玄関のドアが開く音がした。
それから少しすると、階段を上がる二つの足音が来る......二つ?
(千夏さんも一緒に来てるのかな?)
俺がそう考えていると、部屋のドアが開かれる。
「お邪魔しまーす!ごめんねー、遅くなっちゃって......って、えっ?」
「お、お邪魔します......」
なぜか
「ちょっと樹ー?こっち来て?」
「えっ?ま、まあ、いいけど......」
ちょいちょいと琴音が手招きをしてきた。俺は少し混乱していたが、おとなしく琴音についていく。
優希の部屋から少し離れたところまで来ると、琴音が話始めた。
「ちょっと?なんで知らない人が二人も来てるの?私聞いてないんだけど」
琴音は腕を組み、少し怒っているような口調で俺に尋ねる。
「いや、俺も小鳥遊さんが来るなんて聞いてないんだが?」
「ああ、それはね、えへへ、小夜ちゃんが来た方が面白い展開になると思ってね、私的に」
ほんとにお前的な事情だな。
「せめて連絡くらいしてくれてもよかったのに」
「いやぁ、なんかいきなり来た方が面白くなるかなって思っちゃってね」
いや、全然面白くないから。
「それなのにさ、なんか知らない人が二人も来ちゃってるしさ。せっかく小夜ちゃんと優希二人だけにしてから、それをこっそり覗き見しようと思ってたのに」
「お前趣味わりぃな、さすがにちょっと引くわ」
「ひどくない!?樹だって気持ちわかるでしょ?」
心外といった表情をする琴音。いやまあ、少しはわからなくもないが。
「ごほん、まあ、それはとりあえず置いておいて」
「あっ、まずいと思って話題逸らした」
うるせぇよ。
「確かに俺は琴音に黙って大山と米倉さんを誘ったよ?いや、頼まれたのか?まあ、そこはいいとして......しかし、一つ言っておきたいことがあります」
「ほお、それは一体なんでしょうか?」
琴音も何か乗ってきたな。
「それは、米倉さんも優希に好意を寄せている、ということです」
「そう、なの?でも、私が応援しているのはあくまで小夜ちゃんだよ?そんなよくわからん女がいて理由には......」
ひどいな、米倉さんをよくわからん女って。まあ、琴音からしたらその通りなんだろうけど......
「琴音さん、あなたに一つ言っておきたいことがあります」
「それ、さっきも言ってなかった?もう二つ目じゃん」
......そういやそうだな。
しかし、俺は琴音の言うことは無視して話を続ける。
「琴音さん、ラブコメというものは、主人公とメインヒロインだけで成立すると思っていますか?」
「えっ?何、いきなり?いやまあ、短編ならともかく、普通は他にも登場人物がいないと成り立たないけど......」
「そうですよね、それ以外にも親友、幼馴染、同僚、同級生、色々な登場人物がいないと成り立たない。そして、その中で最も読者を沸かすことのできる存在は何だと思いますか?琴音さん」
「えっ、何だろう......」
顎に手を当て考える琴音。
「それは、時にメインヒロインと人気を二分し、時にメインヒロイン以上の人気を得る人物、そう、それはメインヒロインのライバルである、サブヒロインです」
「あっ、言われてみれば!」
ポンッと手を打って納得したような表情をする琴音。
「琴音の視点からしたら優希が主人公、小鳥遊さんがメインヒロインだろ?」
「あっ、さっきのキモいしゃべり方やめたんだ」
キモいっていうな、ちょっと傷つく。
「それで米倉さんがサブヒロイン、どうだ?良いだろ?」
「確かに。良い」
この会話だけでは納得できなかった人もいるかもしれないが、俺たちアニオタにはこれだけで伝わるのだ。
というか、米倉さんすまん!サブとか言っちゃって!
「でも、あの、大山君ってのは?あれは別にいらないよね?」
あれって。いらないって......ひどいな。
「ああ、ああいうのは何も考えてないからそこが逆に良いんだよ。ストレートな言葉をズバッと切り出してくれるからな。例えばそう、「あれ、お前ら付き合ってんの?」とかが有名だな」
「確かに、そういうキャラも必要かもね」
腕を組んで深く何度も頷く琴音。
というか、大山すまん!何も考えてないとか言って!
「ということで、納得したか?」
「まあ、一応はね。確かに、そういうキャラがいたほうが面白い展開になる可能性はある」
「わかってくれたようで嬉しいよ」
そうして、俺たちは固く握手を交わし、優希の部屋へと戻っていった。
「あっ、やっと戻ってきた。二人で何してたの?」
部屋に戻ると、優希が尋ねてきた。
「まあ、とあるラブコメについて熱い論争をね」
なんかやりきった感を出した顔でそんなことを言う琴音。なんかちょっとイラっと来るんだが。
「そ、そう?まあ、早く座りなよ」
琴音の返答に優希は違和感を覚えたような顔をしながらも、座って準備をするよう促す。
「はいはい、あっ、小夜ちゃん、ちょっと詰めて」
「えっ、ええっ?ちょっと、ことちゃん......」
ここで少し説明するが、俺たちが戻ってくる前の席順は、大山・優希 少し間を開けて小鳥遊さん・米倉さんの順だった。
そこで琴音が、優希と小鳥遊さんの間を自分が入ることで詰めて、優希と小鳥遊さんとの距離を近くする。そうして、あわよくば「あっ、ごめーん」とか言って小鳥遊さんにぶつかり、その衝撃で小鳥遊さんを優希の体にぶつけ、そうして小鳥遊さんの反応を楽しむ、大体こんなのを狙ってるんだろう。
なんというか、ラブコメの中では腐るほどあるありふれた展開だな。まあ、俺はその展開、嫌いじゃないが。いや、むしろ良い。
「じゃあ、俺もちょっと失礼」
そうして、俺は米倉さんと大山の間に入る。というか、そこしか空いてなかったから。
「......なんか狭いな」
「まあ、まさかこんなに来るとは思わなかったからね」
さすがに六人が全員一つのテーブルに集まると、かなりぎゅうぎゅうだな。肩身が狭い、物理的に。
「俺が退けようか?自分の机で勉強するから」
「えっ!」
優希がそんな提案をすると、琴音が驚いたような声を上げた。小鳥遊さんを優希と(物理的に)くっつけて、小鳥遊さんの反応を楽しむという琴音の目論見が音を立てて崩れていく。
「えっ!俺、斎藤が隣にいてもらわなきゃ困るぞ!勉強教えてもらうために!」
大山が率直に、まっすぐに、自己中心的な意見を言った。
「そ、そう?じゃあ、どうしようか......」
大山が意見を言ったことでどうするのか困ってしまった優希。
しかし、その隣の隣では......
「よっし!」
人にばれないように一人で静かにガッツポーズをしている琴音の姿があった。
(ほら、大山も役に立っただろ?)
(確かにね、彼はいい仕事をしてくれたよ)
視線でそう会話をする。琴音の文なんか英語の直訳みたいだったが、たまたまだろうな。
「じゃあ、私が机の方に移動しようか?」
米倉さんがそう提案した。一見気が使える優しい人に見えるが、俺にはわかる。
この人、ただ優希の机だとか椅子だとかに興味があるだけだろうな。優希がいつも使っている物を使ってみたいだけなんだろうな。
「えっ、いいの?」
「いいのいいの」
「ありがとね、助かる」
米倉さんの下心?に優希は気が付かず、米倉さんに対してお礼を言う。
「じゃあ、始めよっか」
そうして、ようやく全員揃った勉強会が始まった。
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