第6話 勉強会 1

 「優希ー」


 「ん、なんだ?樹」


 今日の授業も終わり、俺は、帰ろうとする優希を呼び止めた。


 「あのさ、大山も勉強会に参加したいんだって。大丈夫か?」


 俺がそう言うと、不思議そうな顔をする優希。


 「大山って、野球部の?樹となんか接点あったっけ?」


 まあ、そうなるよな。俺も最初(なんで?)って思ったし。


 「いや、今日いきなり声かけられてな。今回のテストで赤点取ると色々とまずいからだってさ」


 「へぇー、うん、いいよ。あと来るのって琴音だけだったっけ?」


 「あー、そうそう。連絡したら、行くって返ってきた」


 あの勉強嫌いの琴音が来るとは思わなかったけど。


 「じゃあ、一緒に帰るか?」


 「いや、今日は学校で自習してから帰るよ」


 さすが優等生、俺にはそんな発想なかったわ。


 「そっか。またな!」


 「はーい、じゃあね!」


 そうして、俺は一人で帰っていった。


 「樹君!」


 としようとして校門を抜けたあたりで、後ろの誰かから声を掛けられた。


 振り返ると、そこには米倉さんが通学カバンを持って立っていた。


 「ああ、米倉さん。何か用?」


 「えっとね、斎藤君の家で勉強会するって聞いて、それで、よかったら私も......」


 「あっ、間に合ってるんで」


 「ちょっと、即答!?ひどくない!?」


 なんとなく予想をしていたので、俺は即返答した。


 これで女子は四人目か、多いな。


 「いいのかなー、私を勉強会に誘わなくても。きっと後悔するよ?」


 「......説明を聞こうか」


 「よろしい」

 

 米倉さんの思わせぶりなセリフに少し興味がわいて、俺は思わず聞き返してしまう。


 「樹君は今日、大山君のことを勉強会に誘っていたよね?」


 「ああ、向こうから懇願されただけだけどな」


 「つまり、最低でも斎藤君、樹君、大山君の三人で勉強会をするわけだ」


 まあ、そこに琴音も加わるんだけど、それは言わなくてもいいか。


 「ああ、そうだな」


 「考えてもみてよ。言い方は悪いけど、あのバカな大山君だよ?そこそこの成績の樹君と、最悪の成績の大山君。さて、優希君はどちらを優先して勉強を教えるかな?」


 「ぐっ、それは......」


 大山の可能性が非常に高い。


 「でも、そうだとして、米倉さんが来る理由は......」


 「私、入学試験、成績トップでした」


 「......えっ、マジ?」


 全然そう見えないんだが、まったく知らなかったんだが。


 「覚えてない?一応私、入学式の時一年生代表でみんなの前でスピーチしたんだけど」


 「そういえば、そうだったような......」


 やべぇ、全然覚えてないんだが。


 「ということで、私が勉強会に来たら樹君は私か斎藤君に勉強を確実に教えてもらえることができる、というわけです。一応樹君にもメリットがあることがわかってもらえたかな?」


 「......わかったよ、優希に聞いてみて、そのあと教えるから」


 「うん、ありがとね!」


 幸せそうな笑顔を浮かべて米倉さんは走り去った、と思ったら、何か思い出したのかまたこちらに向かってきた。


 「そういえば、まだライン交換してなかったね。交換しよっか?」


 「ん?ああ、オッケー」


 そうして、二人スマホを取り出してフレンド登録をする。


 「じゃあ、改めてよろしくね、樹君」


 「ああ、よろしくな」



 ◇◇◇◇◇◇



 五日後。


 「お邪魔します」


 「あら、樹君、いらっしゃ~い」


 俺は昼飯を食べて、勉強会をするために優希の家に来ている。


 「「お邪魔します!」」


 「あら、初めましての子もいるのね。いらっしゃい」


 ちなみに、大山と米倉さんは待ち合わせをして俺と一緒に来ている。二人とも優希の家の場所知らないからな。


 でも、二人ともそんなに遠くに住んでなくてよかったな。どっちも徒歩で行ける距離だった。


 「みんな、ゆっくりしていってね~。あっ、優希の部屋は二階だからね」


 そして、この人が優希の母親、千夏さんである。


 その、なんというか......まあ、親子だなって感じ。どっちも揃って美形、うん、美形だな、遺伝子って恐ろしいな、うん。


 「少し経ったらお茶とお菓子も出しますからね。勉強頑張ってね~」


 「お気遣いなく、千夏さん」


 「もう、おばさんで良いわよ~」


 いやいや、千夏さんがおばさんなら、高校生超えたらみんなおばさんになっちゃうから。っていうか、違和感しかないから、それ。


 「失礼します」


 俺は心中で盛大に突っ込みながらも、靴を脱いで斎藤家に足を踏み入れる。


 「「失礼します」」


 二人も俺に続いて靴を脱ぐ。


 そうして、階段を上がり優希の部屋へと入る。


 「ああ、いらっしゃい」


 部屋に入ると、すでに勉強の準備を済ませていた優希の姿があった。


 「あれ、琴音の奴、まだ来てないんだ?」


 「琴音、いつも待ち合わせには遅れるから」


 「そういやそうだったな」


 「そろそろ入ってくれるか?」


 俺が勇気と軽口を叩いていると、大山に急かされてしまった。


 「ああ、すまんすまん。優希、これが今日呼んだ大山と米倉さん」


 「よろしくな!今日は色々聞くと思うから大変かもだけど!」


 「よ、よろしくね、斎藤君」


 大山は大きく元気よく、米倉さんは緊張しているのか、少し小さい声で優希に挨拶をする。


 「うん、よろしく!」


 「じゃあ、ちょっと散らかってるけど、どうぞお入りください」


 「いや、ここ俺の部屋なんだが?それ俺のセリフだから」


 俺は優希の言葉を無視して、部屋に入る。


 優希の部屋は相変わらず整理整頓されていた。前に来た時と違って、今日は勉強会用に部屋の真ん中に大きなテーブルが置かれている。


 「へぇー!ここが斎藤の部屋か!俺の部屋とはえらい違いだな!」


 「し、失礼します」


 「どうぞどうぞ、特に何もない殺風景な部屋ですが」


 「樹、お前それさっきしただろ」


 少し優希に頭を小突かれた。


 「すまんすまん、じゃあ、早速試験勉強始めようぜ」


 「はいはい」


 俺たちは床に荷物を置き、勉強道具を取り出して勉強を始める。


 「って大山!それ次の月曜に提出する課題だろ?まだ終わってなかったのか?」


 「ああ!まだほとんど手を付けてなくてな。今日はこれを終わらすために来たんだ!」


 「今日英語以外しないつもりかよ......」


 大山がバッグから取り出したテキストを見て、俺は思わず声を上げた。


 それは、英語の小山(先生)が出した課題。量はそこまでないのでそこは問題ないのだが、万が一提出期限の次の月曜までに提出ができなかったら、その者はテスト前の一週間、毎日放課後補習をしに行かなければならないのだ。鬼畜である。


 「それで、樹は何の教科持ってきたんだ?」


 「ああ、俺は数Ⅰと物理。特に物理がいまいちよくわからなくてな」


 「そういや、樹って文系だったな」


 まあ、昔から国語だけは何も対策してなくてもそこそこの点数は取れてたからな。


 「米倉さんは?何持ってきたの?」


 「あっ、えっと、私は全教科をまんべんなく......」


 小さな声で話す米倉さん。というか全教科って。苦手教科とかはないのだろうか?


 「じゃあ、勉強を始めようか。わからないとこがあったら何でも聞いてね」


 「じゃあ、早速で悪いんだが、ここ教えてくれるか?」


 大山がテキストのページを開いて優希に尋ねる。


 本当に早速だな。っていうかそのページ、一番最初の『中学生の復習』じゃね?まさかそっからかよ......


 「じゃあ、俺たちも勉強始めるか」


 「う、うん。オッケー」


 米倉さんは俺の顔を見ると、なぜかほっとした顔をした。


 「なんでそんなほっとした顔したんだ?」


 「え?いや、なんかホテルから実家に帰ってきた気分になって」


 「?どういうこと?」


 意味がわからん。


 「えっとね、斎藤君が三ツ星ホテルで、樹君が実家って感じがするんだよね、雰囲気が」


 「えっ、落差すごくね?」


 いまいちよくわからないが、なんかむかつくな。


 俺はどこかもやもやしながら、勉強を始めた。

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