第5話 新入部員
午後の授業も終わり、俺は優希と部室へと向かった。
コンコン
そうして、部室のドアを開けると、今日も
「あれ、小鳥遊さん、今日も見学?」
俺が声を掛けると、小鳥遊さんは慌てたように立った。
「あっ、あのっ!私、今日ここ、アニメ研究部に入部することになりました!どうぞこれからよろしくお願いします!」
そうして、小鳥遊さんは深くお辞儀をする。
「あっ、そうだったんだ!よろしくね!」
「はっ、はいっ!」
「よろしくね、小鳥遊さん!」
「はっ、はいっ」
小鳥遊さん、優希に声を掛けられた時だけ妙に声がしぼんでいたな。
「きょ、今日は、小鳥遊さんにアニ研の活動内容とかを教えるよ。その後に小鳥遊さん個人の活動とかを話し合うから、よろしくね」
「あっ、わかりました」
俺たちは席に着く。
「じゃ、じゃあ、アニ研の活動内容について教えるね」
「はいっ!」
小鳥遊さんは気合の入った返事をする。
「簡単に説明すると、アニ研はいろいろなアニメの二次創作物を製作する部活だよ。あっ、二次創作物って何なのか知ってる?」
「はっ、はいっ、何かの著作物を利用してオリジナルの作品を作る、みたいなことで、合ってますか?」
「そうそう。例えばアニ研では、色々なアニメを元とした小説やイラストを描いたり、フィギュアを製作したりしているよ」
「へぇー、い、色々なことをしているんですね!」
小鳥遊さん、一昨日まで青木部長の顔を見ただけで逃げ出していたのに、もう普通に会話をしている。成長したな。
「そ、それで、小鳥遊さんはどんなものを作る?あ、別に今日決めなくてもいいんだけど......」
「そうですね......」
小鳥遊さんは少しの間考える。
「えっと、絵を描くことが趣味なので、イラストなどを描こうと思います」
「そ、そうか、わかったよ。絵を描くためのタブレットとかは持ってる?」
「は、はい、一応。安いものですけど......」
持ってたんだ。
「じゃあ、池沢先生にタブレットとかの持ち込みについて言っておくから。あっ、池沢先生っていうのは、アニ研の顧問の先生のことね」
「はい、ありがとうございます!」
「そういえば小夜ちゃん、優希もアニメのキャラのイラストとかを描いているから、わからなかったら色々聞いてみるといいよー!」
にやにやと笑いながら小鳥遊さんに言う琴音。絶対にわざとだな、小鳥遊さんの反応を楽しもうとしているんだろう。いや、そう言う俺も小鳥遊さんがどんな反応をするのか結構気になるんだけどな。
「......えっ?えっ、えとっ、その......」
唐突のことに予想通りテンパる小鳥遊さん。
「ああ、わからないことがあったら何でも質問していいからね!っていっても、俺も初心者だからそんなに詳しくはないけど」
頭を掻きながら笑顔でそんなことを言う優希。さあ、小鳥遊さんの反応は……!
「えっ、あっ、その、ひゃい......」
あっ、噛んだ!
噛んだことが恥ずかしかったのか、小鳥遊さんの顔がみるみるうちに赤く染まって、それを隠すためか急いで下を向く。
ふと琴音の方を見ると、ニマニマとした笑みを必死に隠そうとしていた。が、全然丸わかりである。おいっ、よだれ出てるぞ、よだれ。
「じゃ、じゃあ、そろそろ活動を始めようか。小鳥遊さん、わからないことがあったらいつでも聞いてね」
「はっ、はいっ」
そうして、俺たちはアニ研の活動を始めた。
「じゃ、じゃあ、そろそろ下校しようか」
新たに小鳥遊さんが部員に加わって最初の部活動は、特に何もなく普通に終わった。
「あっ、そ、そういえば、忘れるところだった。小鳥遊さんってスマホ持ってる?」
「えっ?は、はい、持っていますけど......」
不思議そうな顔で頷く小鳥遊さん。
「も、もしよかったら、その、アニ研のグループラインに入らないかな?今のところはみんな入っているんだけど」
「あっ、はい、お願いします!」
そうして二人はスマホを取り出して、操作をする。
ピロリン!
三人のスマホの着信音が一斉に鳴った。スマホを確認すると、『小夜がアニ研メンバーに加入されました』という通知が来ていた。
そのあと、「これからよろしくお願いします」という通知が来た。
返信をしようとグループラインを開いてみて気づいたのだが、小鳥遊さん含め全員アイコンが何かしらのアニメのキャラだった。非常にアニ研らしい。
グループラインを見るとみんなで返信をしていて、最後は優希が小鳥遊さんに返信をした。
そうして、位置的に俺からしか見えなかったのだが、小鳥遊さんはスマホを顔に近づけ口が見えなくなるようにしてから......嬉しそうに、そっと微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇
翌日、教室での朝のホームルーム。
現在六月十五日。一週間ほど前に梅雨入りをした。非常に嫌な季節である。
しかし、梅雨ということの他にもう一つ!気分が滅入る行事があと二週間というところまでに迫っていた。
それは!
「七月定期までちょうどあと二週間だ。そろそろ試験に向けて計画的に勉強に取り組むようにしろよ。いいか?」
「「「はーい」」」
そう、七月定期考査である。
この高校では年に三回の定期考査があり、順に七月、十二月、三月となっている。
今年の七月定期考査は六月二十九日~七月二日まで五日間に分けてテストが行われるのだ。六月が三日間、七月が二日間である。
普通に日数で考えれば六月定期じゃね?と思うのはきっと俺だけじゃないだろう。正直どうでもいいのだが、定期考査が近くてピリピリしているためこういうこともいちいち気になってしまうのだ。
そして......
「おっとそうだ。定期考査二週間前から部活禁止になるから、そのつもりでな」
「「「......はーい」」」
そう、この高校、なぜか二週間前から部活動禁止というかなり厳しい決まりになっているのだ。バリバリの進学校でもないくせに。
中学の頃は部活禁止なのは一週間前からだったのになー。まあ、俺中学の頃は部活入ってなかったから関係なかったんだけど。
「じゃあ、朝のホームルームはこれで終わりだ。次は確か移動教室だったと思うから、早めに準備をしとけよ」
担任の先生はそう言って教室を出ていった。
「なあ、七月定期どうする?」
俺は席を引いて後ろを向いて、優希に話しかける。
「どうするって、普通に勉強すればいいだろ?」
「いつも通り余裕そうだな、優希」
「そりゃあ、ちゃんといつも勉強してるからな」
苦笑いをする優希。まあ、努力しているのは事実なんだから俺からは何も言えないんだが。
「今回も勉強、教えてやろうか?」
「おお、ありがたや、ありがたや。助かるぜ」
「じゃあ、週末に俺んちで、昼から。それでいいか?」
優希が俺んち、って言った時に、何人かの女子の視線を背中で感じたんだが。
「お、おう」
「他にも誰か誘うか?」
女子たちの視線がさらに鋭くなった、気がする。
「俺が何人か誘ってみるよ」
「わかった、ちゃんと勉強道具持って来いよ」
「さすがに持ってくるわ」
そんな軽口を叩きながら、俺はこれから少し忙しくなる予感がしていた。
「あの、さっき斎藤君と勉強会するって言ってたよね」
「......ああ、そうだね」
これで三人目か、面倒だな。
「もしよかったらなんだけど、私もそれに行ってもいいかな?」
「ごめんね、もう何人か誘っちゃってて。あんまり大人数でやるスペースはないからさ」
「そ、そっか。ありがとね」
一応本当のことを言っていて、もうすでに琴音は誘ってある。
「ちょっといいか?」
「ん、何?」
今度は男子か?何の用だろう?
振り返ると、そこにはガタイの良いいかにもスポーツマンって感じの男子生徒が立っていた。名前は確か......大山だったか。
「さっき女子が言っていたのを聞いたんだが、斎藤と一緒に勉強会するんだろ?」
「え?えっと、まあ、そうだけど......」
「もしよかったら、それ、俺も入れてくれないか?」
なぜか、優希目当ての女子じゃなくて男子に勉強会に入りたいと頼まれたのだが?
「えっと、どうして?」
「あー、実はな、親が今回のテストで赤点取ったら小遣い減らすよ!って言われちゃってさー。それで」
赤点?平均点じゃなくて、赤点?
「......えっと、ちなみに、お小遣いはどれくらい?」
「一万円から八千円に減らすんだって」
「普通にめっちゃもらってるじゃねえか!」
なんだよ一万円って!俺その半分しかもらってねえぞ!
「嘘嘘、それだけじゃないって。なんと!スマホも一か月没収されちまうんだよ」
「おお、それはきついな」
スマホ一か月没収か、それはかなり厳しいな。
「だからさ、頼むよ!この通り!」
大山は頭を下げ手を前に出し手を合わせる。なんか奥さんに許しを請うダメ親父みたいだな、アニメで見た。
「一応優希に確認取ってからな」
「おお、ありがてぇ!」
今度は小物感漂うセリフだ、俺の偏見だが。
「おっ、そうだ!ライン交換しようぜ!」
「ん?ああ、いいけど」
双方スマホを取り出してフレンド登録をする。
『大山
アイコンには野球選手が映っている。野球部なのだろうか?
「じゃ、よろしくな!」
「おお」
今回の勉強会、騒がしくなりそうだな。
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