第4話 荒崎さんと池沢先生
昼休み。
俺は、青木部長がこの高校の図書室はラノベの宝庫だと言っていたので、それが真実なのかどうか確かめるために図書室へと向かっていた。
俺は前はラノベというものをあまり読んだことがなかったのだが、一昨年、つまり中二のとき、好きなアニメの原作のラノベが何かのアプリで一冊丸々無料になっていたことがあった。
それを試しに読んでみたところかなり面白くて、それからというもの、俺はお小遣いの大半をラノベに費やすようになったのだ。
そんな俺なのだが、現在気になっているラノベがある。
それは、『俺、十年も会ってなかった幼馴染となぜか同棲することになったのだが?』というものである。
この作品は現在進行形でアニメが放送されており、それが非常に面白いのだ。毎週毎週主人公とヒロインとのやり取りにドキドキさせてもらっている。
そしてなんと!青木部長からの情報によれば、この高校の図書室にそれの原作のラノベがあるというのだ。まさか今放送中のアニメの原作があるとは考えずらいのだが、青木部長が嘘を言ってるとも考えずら......
「おい、ちょっといいか?」
「えっ?何ですか......」
突然肩を叩かれたので驚いて振り向くと、先程優希に絡んでいた荒崎さんがいた。
「荒崎さん!?えっ、一体何の......」
「いいから、ちょっとこっち来てくれ」
荒崎さんは俺の手を掴んで思い切り引っ張って、どこかへ連れて行こうとする。
もちろん俺は抵抗できるはずもなく、そのまま荒崎さんについていく。
そうして、どこか知らない空き教室まで連れていかれた。
「あ、あの、一体僕に何の用が......」
「......その、あれだ。お前、斎藤と仲良かったよな」
「はあ、まあ、そうですけど......」
やっぱり優希のことか。俺はこの展開をあと何回繰り返さなきゃならんのだ。
「それで、その、斎藤に礼がしたいんだが、斎藤ってなんか好きなものとかないのか?」
「優希の好きなもの、ですか?というかその前に、お礼?優希に何かしてもらったんですか?」
「あー、えっと......」
荒崎さんは手混ぜをしながらもじもじと恥ずかしそうにしている。ヤンキーどこ行った?あの怖かった荒崎さんどこ行った?
「実は、話すと長くなるんだが......」
そう言って、荒崎さんは優希に助けられた時のことを話し出した。
簡単に説明すると、荒崎さんはどこかでナンパされていた女子を偶然見て助けようとしたそうな。
ただ、その男が今度は荒崎さんのことをナンパしてきたらしく、荒崎さんは困ってしまった。
そして、そこに駆け付けて荒崎さんを助けたのが、優希だったという。
俺はてっきりそのナンパ野郎を荒崎さんがぶっ飛ばした話なのだと思っていたのだが、なんと荒崎さん、人に暴力をふるったことすらない心優しき女の子だったのだ。
本当、青木部長のことと言い、人は見かけによらないな。
「そういうわけで、斎藤にそのときの礼がしたくて、何か斎藤に渡して感謝の気持ちを伝えようと思ったんだが、何か知らないか?」
「うーん、そんなもの渡さなくても普通に、あの時はありがとうって言うだけで良いと思いますよ」
というか、俺優希の親友なのに優希の好きなものアニメ以外知らないのだが。
「それだけで、本当に良いだろうか?」
「大丈夫ですって。優希の親友である俺が保証します」
荒崎さん、律儀だなー。
「そうか......わかった、呼び止めてしまって悪かったな。ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
荒崎さんは僕にお礼を言って去っていった。
荒崎さん、意外と真面目キャラか?口調もそうだし、お礼をしたいとか律儀なところもそうだし。
でも、なんでヤンキーっぽい見た目なんだろうか?性格は真逆だよな?
あと一つ、女の人にモテそうだなー、俺の勘だが。
「っと、危ない危ない、忘れてたよ」
図書室に行ってお目当てのラノベを探すんだった。えーと、時間は......大丈夫、あと十五分あるな。
そうして、俺は階段を上がっていく。この高校の図書室は一番上の四階にあるため、結構行くまで大変だ。
四階に着いたころには、俺は少し息が上がっていた。
そして、俺は図書室に入った。
「ああ、いらっしゃい」
図書室に入ると、どこかふわふわした男の人がカウンターにいて声をかけてくれた。小中では女の人が図書室の先生だったから、なんか新鮮だな。
「失礼します」
俺は遅れて挨拶のようなものをする。その後、お目当てのラノベ、『俺、十年会ってなかった幼馴染となぜか同棲することになったのだが?』を探す。
青木部長からの情報によると、ラノベコーナーの上から二番目の右辺りにある背表紙がピンクの奴って言ってたな。
まず、ラノベコーナーはっと、おっ、あった。
そこには、図書室の中央を大きく占領して存在感を放っているラノベコーナーがあった。すごいな、五百冊くらいあるんじゃないか?
これは青木部長が絶賛するわけだよ、読んだことのない本ばっかりだ。
えーと、上から二番目で、右辺りの、背表紙がピンクの奴......おっ、これか?
条件に合致したそれらしき本を手に取ってみる。
って、あれ?なんかこれ、違くね?
表紙を見てみると、ネットで見たものと明らかに違っていた。メインで写ってるの女性だし、まずキャラ全然違うし。
不思議に思った俺は、タイトルを見てみる。
『私、十年も会っていなかった元カレとなぜかシェアハウスすることになったんですが?』
「......タイトル似てるだけの別作じゃねえか!」
「どうかした?」
まずい、思わず声出してしまった。
「い、いえ、あの......『俺、十年も会ってなかった幼馴染となぜか同棲することになったんだが?』っていう本、ありますか?」
なんか言ってて少し恥ずかしくなってきたんだが。
「ああ、あれね。あるよ」
「えっ、本当ですか?」
「うん、確かこの辺に......」
図書室の先生はカウンターから出て、本を探してくれた。
「あっ、あったあった。これだよね?」
図書室の先生が手にしていたのは、間違いなく俺のお目当てのラノベだった。
「ありがとうございます!」
「どういたしまして、田中君」
「......えっ、なんで俺の名前......」
「ふふ、びっくりした?」
図書室の先生は少し笑って、その理由を告げる。
「田中君はまだ知らないと思うけど、僕、実はアニ研の顧問なんだよね」
「えっ!アニ研に顧問いたんですか!」
「部活なんだから、そりゃいるよ」
アニ研に入ってもう二か月なのに、全然知らなかった。
「僕、一応家では兼業主夫みたいなのしてるからなるべく早く帰っててね。それであんまりアニ研に顔出せてなかったんだ」
「って、先生結婚してたんですか?」
「してるよー、ほら」
図書室の先生は左手をこちらに向けて、結婚指輪を見せる。
「そういえば、お名前の方は?」
「ああ、そういえば初めましてだね。僕の名前は池沢、池沢輝彦です。よろしくね」
池沢先生は手をひらひらさせて自己紹介をする。
「そういえば、このラノベの山は池沢先生の?」
「そう、僕の趣味だよ。生徒からのリクエストも結構あるけどね」
それでもこの量はすごいよな。学校の図書室とはとても思えんわ。
「僕、大のラノベ好きでね。本当、学校から出るお金で自分が読みたい本を取り寄せられるから、この仕事について良かったよー」
「それ、他の先生の前では言わない方がいいかもですね」
「あっ、そうだねー」
まあ、俺たち生徒にとっては、よくわからん本が増えるよりよっぽど嬉しいんだけどな。
「どうせなら、漫画の方も注文したらいいんじゃないですか?ほら、部活系だったり、勉強になる漫画だったら上手く先生方を説得できるかと」
「あっ、それいいねー。あとで言ってみようかな」
「そうそう......ってやばっ!」
そうこう話しているうちに、いつの間にか次の授業が始まる時間になろうとしていた。
「じゃあ、俺はそろそろ授業があるので、これで!」
「はいはーい、また図書室に来てね」
「はいっ!」
そうして、俺は急いで教室に戻った。
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