第2話 白銀に輝く救いの女神

 ――暖かい、僕は雪山で死んだはずじゃ


 体には毛皮が掛けられてあり、誰かが救助してくれたみたいだ――誰が?

 あの雪山は村のものたちは近づかないし誰も助けに来れないはずなのに。


「あ、起きてる」

 遠くの方で静かな透き通る綺麗な声が聞こえる。

「あなた様はどなた様でしょうか?、フェスタ村のユートと申し言います」

 

 目を向けると雪のように白い透き通った触れるのを躊躇われる肌、綺麗に梳かされた長い白銀に輝く美の女神がいた。美人なんて生まれてこのかた見ることがない。美人ってこういう存在なんだ。

 困惑しすぎて言葉がおかしくなった。


「ん、スノーラ」

「巣の裏ですか?」

「ん?スノーラ・シマリィ」


 うわあ、何が巣の裏だよ。話の流れから分かれよ、名前だろ。普通に考えて。一人恥ずかしさに悶絶しているとなんだか視線を感じる。


「なんですか?」

「…ん、生きてる人間珍しい……26年ぶり」

「そうなんですか。ここってどこなんですか?」

「ん?家」


 家?家ってことはスノーラはここに住んでるってこと?この森の中に。今気が付けば、雪は降っているけれどこの山には木々が生えている。でも、こんなところで住めるものだろうか?


 今も僕を木の洞の中に入れて外でスノーラは雪に身を晒している。寒くないんだろうか?


「寒くないんですか?」

「ん、雪の中で生きるから」


 雪の中で生きる?どういう意味だろう?二人の間に薪が燃える音だけが静かに響く。

 ――グウゥゥ


 スノーラがきょとんとした顔を向けてくる。

「すみません、空腹で……」

「ん、食べて」

 氷の狼がスノーラから入れ物を受け取るとこっちに向かってきた。

「オオカミ!」


 僕は急いで大根を掴もうとするもその手は空をきった。山神様へのお供物がない。

「大丈夫、温める。それ、あなた持ってたやつ」


 僕が慌てている理由を勘違いしたのか見当違いなことを言う

「この狼なんですか!?」

「ん?使い魔」


 使い魔、高位な術者なのだろうか、確かにこんなところに住んでいて雪の中に薄着でいられるなら普通じゃなくて納得はできる。

 困惑している間に、狼は焚き火の熱で溶けて前に温かい野菜スープの入った器が残される。


「山神様にお供物をしないといけないんですけど、いますかね?」

「……ん?この山にそんなのいない」

「じゃあ、僕、山神様への生贄に出されたんですけどこれからどうしましょうか?」

「…………ん、住めばいい」


 食事を終えると一応、生贄として出された以上聞いてみた。やっぱり、そんな存在はいないみたいだ。ここに住まわしてくれたらいいな。と思って聞くと、僕の顔を眺めてから住んでいいと許可をもらうことができた。


 これから長い彼女との共同生活が始まる。

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