氷に閉ざされた世界で交わる赤い糸――生贄少年と雪の妖精

コウノトリ

第1話 生贄の僕

「ユート、達者でな」

「行ってまいります……父上」


 言葉とは裏腹に父の顔は涙で濡れている。きっと僕の顔も見ていられないものだろう。僕の生まれた氷に閉ざされた土地スノーランドは雪が溶けるたびに雪が降り、決して雪が溶けることがない土地。


 そして、年に一度雪をふらす山神様に願うのだ――どうかお怒りを治めてくださいと。そして、村に雪が降らないように山の加護を貰い受けに行く。


 どうして山神様は怒っているのか?吹雪で山が閉ざされる前の年のこと。何百年も続いた人と魔人の戦争が人の勝利に終わった。

 魔人は魔石を落とす魔物一種が人のような知能を持った脅威的な存在だった。戦争が始まると人は生存圏を戦争が始まる前の1割に狭まった。


 そんな時、魔人の国の王を特攻部隊が討ち取ったという情報が流れたのだ。誰も信じなかった。けれども、魔人が攻めてこなくなった。それが分かってから、それはそれは毎日お祭り騒ぎだったらしい。


 そして、お祭り騒ぎに必要な木材と食料を森で無計画に使い始めた。


 禿げる山、なかなか見つからない動物たち。山神様は激怒した。村を離れるには近くで採れることが分かった金は惜しかった。だから、村のみんなで話し合って、山神様の怒りを治めようと25年前に生贄を出した。


 不思議なことにその年から村には雪が降らなくなって作物をかろうじて育てれるようになった。だから毎年、村の中でも美男と美女が交互に生贄に出される。


 そして、今年は僕だった。毎年消える美男、美女に美しいと言われる子供を持つ親は村を逃げ出した。だから、逃げ出す力のないフツメンの僕が選ばれる。


 山神様の怒りに触れないだろうか?


 僕、フツメンなんだけどな。あまり死ぬことは考えず、的外れなことを考える。村で採れた作物の入ったカゴを背負って、一人吹雪の山の中を登る。


 遠くで狼のシルエットが揺れる。狼ってまだいたんだな。


 もう嫌だ。見当違いのことを考えるのももう限界だった。どうして僕がこんな寒い中で一人、死なないといけないのか。そもそもだ。みんな髪を伸ばして隠してただけで絶対僕よりイケメンのやついただろ!


 いい加減にしろよ!こんちきしょう!!

 さあ来い。狼このが相手にしてやる。


 もうがむしゃらに大根を構えた。それなのに狼の姿は見えなくなっている。なんだよ、無い勇気を振り絞ったのに。


 ああ、体が寒くて感覚が薄れてきた。クソッ!僕はこんなところで死ぬのかな。ああ、もっと長く生きたかったな。




 

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