経験値は経口摂取もする

 やってきたのは巨大なドングリの樹……に囲まれたそこそこ大きな池。

ここでレベリングすると言っていたが、特別な何かがあるわけではなさそうだ。


「ここで何すんの?」


「釣りと食事」


「あーーー…………は?」


 反応している間にグラスホッパー……略してグラパーは釣り竿を池に垂らし、一匹目を釣り上げた。


 それは大きなゲンゴロウであった。明らかに敵対している。


「何ボーッとしてるんだ、攻撃しなよ」


「え?」


 突然の出来事に驚きを隠せない。ライラックは杖を巨大ゲンゴロウに向ける。対してグラパーはインベントリから怪しい液体を取り出し…


 ライラックは瞬時に理解した。それは紛れもなく酢酸エチルアレのようなものであると。


「さらにアンモニア注射もする」


「やってることエグいな…」


 絵面は完全に生物実験で、彼はさながらマッドサイエンティストのようで……


「マッドサイエンティストじゃん…」


 おっといけない、つい思ったことが口に出てしまった。


「僕は【錬金術師アルケミスト】なんだけどなー」


 グラパーはそう言いつつ火炎瓶で巨大ゲンゴロウを燃やす。


「……あぁそうだ、はい。これ使いな」


「あー、理解した」


 【麻痺】、【毒】、【火傷】……状態異常が掛け合わさり動きが鈍くなった巨大ゲンゴロウに、追撃が入る。


「【クイックスペル】!からの【アイスショット】!」


「もっかい【アイスショット】!!さらに【アイスショット】!!」


 ゴクゴクゴク。グラパーに渡されたMP回復ポーションをガブ飲みする。


「【アイスショット】!【アイスショット】!」


 ゴクゴク。


「【アイスショット】!【アイスショット】!」


 ゴクゴク。ゲンゴロウに新たな状態異常、【凍結】が付与され、更に動きが鈍くなる。


「【アイスショット】!【アッドスペル】!【アイスショット】!!」


 最後の一撃、状態異常に侵され虫の息となったゲンゴロウに止めを刺した。

レベルが上がる。スキルレベルも上がる。新スキルまで……ん?もうレベル7?早くないか?


「このゲンゴロウって何レベだった?」


「この池は20〜30レベルのが釣れるけど…さっきのは25レベだね」


 25レベ!?…どう考えてもレベル3の俺が倒せる相手では無いような…あ、そうか。グラパーは俗に言うDoT(Damage over Time、継続ダメージ等のこと)で戦うジョブに就いている。つまるところあのゲンゴロウは超弱体化していたのだ。では何故俺のレベルが4も上がったのか、それはこのゲーム、複数人でモンスターを倒すと貢献度によって経験値が分配されるのだが、状態異常はいくらダメージを出そうと貢献度が殆ど上がらない。つまり今回の場合半分以上の経験値が俺に入る。しかし、それはDoT戦士はマルチプレイだと全然レベルが上がらないことを意味する。てことはずっとぼっちだったのか、可哀想に……


「じゃあどんどん釣るぞー」


「あ、はい」


 この後ゲンゴロウを3匹程倒した。素材は全部グラパーが取った。俺の分は無いらしい。


「はい、ここで一旦ステータスを確認してみな」


 言われるがままにステータスオープン。ステータスポイントはもう振ってある。


ーーーーーーーーーーーー

ライラック Lv:16 【LvUPまで残り:18EXP】

・魔法士【氷使い】


【ステータス】

HP【体力】:40

MP【魔力】:65

ATK【物理攻撃力】:15

MAT【魔法攻撃力】:50

DEF【物理防御力】:15

MDF【魔法防御力】:15

AGI【敏捷性】:60

INT【知性】:15

LUC【幸運】:15


STM【持久力】:16 1%↑/sec


残存ステータスポイント:0


【装備】

右:普通の杖 56/100

左:普通の魔導書

頭:無し

胴:普通のローブ

腰:普通のローブ

足:普通のブーツ

アクセサリー:無し


【スキル】

・アッドスペル Lv:5

・ラピッドスペル

・セルフマナリカバリー Lv:2

・オートマナリカバリー Lv:1

絶対零度アブソルータ・ヌラ


【称号】

・駆け出しバグハンター

・見習いバグハンター

・氷の使い手

・氷結術師


所持金:1000リテス

ーーーーーーーーーーーー


【アッドスペル】はLv:5になり、効果倍率が3倍に。【クイックスペル】は【ラピッドスペル】になり、効果時間が倍に。新たに3つのスキルを手に入れた。そのうち一つはラテン語スキルと言われるもので、他のスキルより強力らしい。それを除けばだいたい見た目通りの効果だ。あとは称号。一気に13レベルも上がったので得られたものも多い。


「よく見な、STMが少ないだろ?」


 そりゃあ戦闘後だしな。


「確かにそうだけどさ、STMなんてすぐ回復するじゃんか」


 STMは毎秒最大値の1%回復する。そのため仮に0になろうとも100秒すれば誰でも全回復だ。


「戦闘中なら話は別だ。そしてSTMを回復できるアイテムがここに


 グラパーはドングリの木の根本を指差す。そこに転がっていたでかいドングリを見て、俺は確信した。

これ幼虫を食うんだろうな、と。


 10分後、ドングリから出てきた…恐らくゾウムシの幼虫であろう虫が、お得意のDoT戦術でHPをほんの少し残された状態で何匹も置かれていた。


「これを串刺しにして焼いて食う」


「な〜るほ〜どね〜」


「何か棒ある?……あ、そうか。魔法使いだから杖あるよね」


 ………は?


「……?杖で串刺しにしたら?」


「まじか……」


 渋々杖を刺す。地味に刺されたときに倒れないHPに調整されている……あいつのHP調整すごいな。


 グラパーが火を起こしてくれたので長さ20cmはあるだろう幼虫を丸焼きにする。


「そろそろ良さそうだね。じゃあ早速実食と行こうか」


 モンスターは調理すると消滅せずにアイテム化するようになっているらしい。普通のゲームならまず昆虫食させてくれないぞ。


 ということで実食。ゲームなので腹は膨れないが、弾力があって、噛めば噛むほど味を感じる。これ、再現度高くないか?こんなところで再現度高くしたって実際食ったことある奴しかわからんぞ。あ、そういう人しかやんないのかこのゲーム。


 唐突なレベルアップ。


「嘘ぉ!?これ経験値入んの!?」


 虫食うと経験値入るの?まじで??


「そうだよ?」


 そうらしい。経験値って経口摂取出来たんだね……

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