蝗は草原を駆ける


 帰宅後、彼はすぐさまVRのシステムを起動した。

それは新規プレイヤーである蠢のことを驚かせるためであった。


 昆虫マニア、同時に結構なゲーマーでもある彼は発売直後からこのゲームをプレイしており、現在は第三の街・ヘラクレスにいる。

そのため初期地点である「蓼虫忘辛りょうちゅうぼうしんの森」まで戻らなければならない。


 全速力で駆け、戦闘中の「ライラック」を見つける。何故プレイヤーネームを知っているのか、それはVTECアカウントでフレンドになっているからである。このゲームではVTECアカウントのフレンドが、ゲームのフレンドにも登録されるのだ。


 気付かれぬようスキル【草擬態グラメン・ルディカ】で近くに潜み、タイミングを見計らう。


 今だ、とスキルを解除し、突如目の前に現れる……!







「ぶべぉ」


「あっ……」


「……いきなり殴りかかる奴があるか!」


「ってなんだ、お前かよ。どうした?口から黒い液体出さねーのか?」


「体までバッタじゃねーっつーの!」


 虫好きじゃないと伝わらない高度なネタだった…。バッタはストレスを受けると(諸説有り)、黒い液体…実を言うとゲロを出すのだが、それを知っているのはバッタを捕まえようとした人くらいだろう。

それにしても急に出てくるもんだから間違えて殴ってしまった。そこは謝った方がいいか?


「あーでも、殴っちゃってゴメンネ?」


「許す」


「へぇ、許すなんて珍しいじゃん」


「あ〜?僕は31レベなんですけど〜?」


「よせよせ、PKするとめんどくさいぞ?」


「チッ」


 このゲームではPK(プレイヤーキル)すると死亡時にアイテム全ロスト、且つモンスターとの戦闘中、ステータスが半減するというまさに泣き面に蜂状態になる。つまり、一度PKすると最早プレイヤーとしか戦えなくなるのである。そのためPKerは実質モンスターのようなものだ。


「実は…ここに来たのは半分が驚かせるためで、半分がある事実を伝えるためだ」


「…ある事実?」


「ああ。まずモンスター捕獲テイムするには特別な道具が必要なんだ」


「まだテイムしたいとか言ってないんだけど」


「顔に出てる、それはもうくっきりと」


「あーそうかい、続きをどうぞ」


「む…で、その道具は第四の街・トロピクスポットにある」


?」


「餌が発見された」


 成る程、餌があるならテイムもできるだろう、ということか。


「僕も虫はテイムしたいわけで、それは君も同じ筈だ……じゃあ、ここは協力しないかぁい?」


 いや、まだレベル3なのに!?


「良いレベリングスポットを見つけちゃってね」


 くっ、手は打ってあったか。


「わかった。協力するよ…」


 という訳で、開始早々グラスホッパーの手伝いをすることになった。

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